世界一コロナ規制の厳しい国から来た男が語る、各国の対応とジョコビッチの意志

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

―― 選手の健康と人権を守るべき立場にある監督として何に注意していましたか。

「選手に対して一番いけないのは、全員をパニックに陥らせてしまうこと。そうなれば、そこから抜けるのも難しい。医療従事者に従うことと、我々クラブとして市役所やドクターたちとの連携も必要です。陽性反応が出た選手もいたけれども、一人だけで他に感染者は出ていない。そういう点は評価されても良いのではないでしょうか」

―― セルビア人であるテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチが旧ユーゴスラビアの諸国を回るチャリティの大会=アドリアツアーを敢行しました。ベオグラード(セルビア)、ザダル(クロアチア)、サラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)、ブドバ(モンテネグロ)、リュブリヤナ(スロベニア)と大会を開いて収益を医療関係に寄付しようというものです。しかし、6月13、14日のベオ、20、21日のザダルで残念ながら感染者を出してしまい、自身にも陽性反応が出て大会の打ち切りを余儀なくされました。

「彼がやろうとしたことはよくわかります。ただ、それに対する知識、オーガナイズの仕方がよくなかったのです。ノバクがやろうとしたのは、決して恵まれた国でなくてもコロナに打ち勝てるということを証明して励ましたかった。そして戦争で解体されてバラバラになった旧ユーゴ諸国の融和と団結を、テニスを通じて計りたかったのです。彼の周りの識者やアドバイスをした人も無理解だったことが残念です。

 あのチャリティツアーを批判する人は多い。アメリカのメディアもそうです。しかし客観的に見てもノバクがチャリティのアドリアツアーで得るものは少ない。彼はそれでもやろうとした。観光を大きな収入源にしているモンテネグロ、クロアチアはあの大会でアピールをしようとしました。EU(欧州連合)が当時機能していなかった時期に旧ユーゴスラビアの諸国があらためて連帯感を持って立ち上がろうとしたのです。

 ノバクは自分の国のことだけを考えてはいなかったのです。結果的に感染者を出したことでの非はもちろんあり、叩かれましたが、彼の姿勢は理解する必要があります。ノバクはアタランタの病院に100 万ユーロは寄付しています。匿名でしたのですが、ドクターが言ったことでわかりました。こういう時期でこそ、アスリートは何ができるのかを考えることが必要です。香川もサラゴサで大きな寄付をしたと聞いています」

 確かにジョコビッチは、2014年春にバルカン半島を襲った100年に1度という巨大な洪水災害の際にも「今こそかつてユーゴスラビア人として生きてきた時代を思い出して皆が手を取り合うべきだ」と声を上げ、自らセルビアのみならずボスニアやクロアチアにも義援金(約1億1千万円)を寄付し、世界に向けても支援を訴えた。これによって各国の市民から大きな支持を得て、1990年代の紛争以降、政治家に出来なかった民族融和を成し得たと評価された。コロナ禍においても同様の意志でアクションを起こしたという。ポポヴィッチは最後に言った。

「叩くことは簡単で実際に結果責任はありますが、ただ災害時にノバクのアクションから私たちアスリートが感じることは少なくないのです」

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