鳥栖が戦術変更で敗戦もギリ残留。金監督「クラブは変わっていくべき」
「とにかく、(J1に)残れてよかった」
取材エリアに出てきたサガン鳥栖の選手たちは、一様に安堵の表情でそう吐き出した。降格を回避する。残留だけが、そのゲームの目標だった。彼らはその使命を果たせたわけだが――。
サガン鳥栖がギリギリで残留できたのは、僥倖(ぎょうこう)だったのか?
最終戦で清水エスパルスに敗れ、肩を落とすサガン鳥栖のイレブン 12月7日、IAIスタジアム日本平。14位の鳥栖は残留をかけ、15位の清水エスパルスの本拠地に乗り込んでいる。16位の湘南ベルマーレが松本山雅に勝利した場合、当地の敗者は16位に転落し、J1昇格プレーオフにまわる。鳥栖は引き分け以上で自力残留を決められるが、引き分けを狙うのは実は難しい。
そこで鳥栖の金明輝監督は、決戦前に選手たちにこう告げている。
「今までのやり方を捨てる」
鳥栖は丁寧にサイドでポジション的優位を作って攻め崩し、バランスよく守る戦術を深めてきたが、この日は内容を問わず、勝ち点を拾いにいった。トップには、高さと強さのある豊田陽平、スピード豊かな金森健志、右サイドには献身的な福田晃斗、サイドバックには運動能力が高い金井貢史を起用。ボールをつなぐリスクは減らし、単純に長いボールで押し込み、自陣に近づけない戦術を選択した。
序盤、鳥栖はペースを握る。前線で豊田が起点となって、巧みにファウルを誘い、そのFKでゴールを狙う。豊田がGKの鼻先で合わせたヘディングシュートは際どかった。
ただ、徐々に鳥栖は押し返されるようになる。ボールの収まりどころがない。タメを作れないことで、攻撃が単調になった。
とりわけ、左サイドで攻撃を引っ張るはずのスペイン人アタッカー、イサック・クエンカが空転した。ボールが足につかない。ディフェンスも淡白で、心ここにあらず。簡単にラインを越えられてしまい、清水の右サイドバック、エウシーニョの独壇場となった。
そして鳥栖は左サイドから崩れ始める。中盤の小野裕二、原川力がそのカバーに追われることによって、全体で悪循環が起こった。
「かなりキツかったですね」
小野は心情を込めて言った。相手を陣内に引き入れてしまい、清水の強力なブラジル人アタッカー、ドウグラスとジュニオール・ドゥトラの2人を抑えきれなくなる。
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