鳥栖監督は忖度ナシで信頼ゲット。「下がるな」の徹底で降格圏脱出へ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Masashi Hara/Getty Images

 J1リーグ第24節終了時点で、サガン鳥栖は16位と沈み、残留争いの真っ只中にある。

 何より、開幕からの低迷が重く響いている。ルイス・カレーラス前監督体制では、第10節まで1勝1分8敗。成績も酷いが、それ以上にプレー内容が惨憺たるものだった。

「FWは守備をしなくていい」

 それは、アトレティコ・マドリード時代の後輩であるフェルナンド・トーレスへの気遣いだったのか。その結果、相手に簡単にボールを持ち運ばれ、サンドバック状態になった。失点を重ね、攻撃も空転。ポゼッションを志向し、「ダイレクトでつなげ!」とバックラインに指示したが、相手を十分に引きつけていないために、易々とプレスをはめられて自滅した。

 だが、「今は選手のストロングを活かせるようになっている」と鳥栖の選手が洩らしているように、状況は一変した。

 金明輝監督が就任して以来、上位との対決が多かったにもかかわらず、リーグ戦では6勝2分6敗。着目すべきはプレーの明確化にある。ピッチの中でひとりひとりが何をすべきか、それが浸透しつつあるのだ。

 スペイン時代も失敗続きで、人望もなかったカレーラスが続投していたら......降格のカウントダウンが始まっていただろう。

選手たちから厚い信頼を寄せられている金明輝監督(サガン鳥栖)選手たちから厚い信頼を寄せられている金明輝監督(サガン鳥栖)「(金)明輝さんになって、クロスが入ってくるようになりましたね」

 金体制で再び脚光を浴びる鳥栖のエース、豊田陽平は説明している。8月11日のセレッソ大阪戦では、その真骨頂を見せた。1点をリードされる展開で、残り10分足らずの出場だったにもかかわらず、まずは強い守備で相手をたじろがせ、林大地が同点にする狼煙を上げると、最後は豊田自ら左足でゴールを決めて、逆転勝利の立役者になった。

「明輝さんは『トヨが入った時は、ストロングを活かせ!』と練習から周りに伝えてくれています。自分も求めるようになりましたが、なにより周りの意識が変わり、クロスが入るようになりましたね。自分が入った瞬間、周りも準備をするというか......。その意味で、自分以外の選手も特徴を出せるようになりました。サッカーをやれている、という幸せを感じています」

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