パスは全部愛情つき。
広島ひと筋19年の森﨑和幸、最後のメッセージ

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「自分はこんなにもたくさんの人に愛されていたというか、応援されていたんだなって、あらためて思いました」

 11月24日、ホーム最終戦に臨んだサンフレッチェ広島森﨑和幸は、長年、慣れ親しんできたエディオン・スタジアム広島の光景を見渡して、感謝の思いを噛みしめていた。

引退セレモニーで涙を流す森﨑和幸引退セレモニーで涙を流す森﨑和幸 サンフレッチェ広島でプレーして19年、ユースから数えれば22年――。37歳の森﨑は、今シーズン限りで現役を退くことを決めた。そんな彼の功績を称えようと、メインスタンドの外には、いくつものメッセージが掲げられていた。

「クラブ史上初高校生Jリーガー」
「クラブ史上初新人王獲得」
「クラブを3度のJ1優勝に導く」
「クラブ唯一の500試合出場」......。

 これを見ただけでも、彼が広島に残してきたものの大きさをうかがい知ることができる。

 一方で、森﨑のキャリアは苦難の連続でもあった。

 2006年にオーバートレーニング症候群を発症すると、2009年には慢性疲労症候群と診断される。その症状は、サッカーはおろか、日常生活すらままならないこともあった。その後も体調不良により、たびたび離脱を繰り返してきた。今シーズンも開幕前から体調不良に陥り、復帰したのは夏も終わりに近づいたころだった。

 苦しむたびに森﨑は、「もう引退しよう」「今度こそやめよう」と考えてきた。それでも毎回、ピッチに戻って来られたのは、広島で生まれ、広島で育った彼のもとには、サポーターであり、応援してくれる人たちの声が直接、届いたからだった。

 だから、彼は引退セレモニーのスピーチで、サポーターに向けて感謝の言葉を述べたのである。そして最後に、こう締めくくった。

「サンフレッチェ広島は、僕の人生のすべてでした。広島に生まれてきてよかったです。本当に19年間、ありがとうございました」

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