塩釜FC時代の遠藤康は「鹿島からオファーが来るとは思わなかった」 (5ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

――それこそ、試合に出られない経験を長くしてきたから、遠藤選手の言葉にはリアリティがあると思います。

「まあそうですね。たとえに出しやすいんですよ。試合に出ていない選手や試合に出たけど、次の試合に出られなくなった選手に『いいじゃん。お前は試合に出られるだけ幸せに思えよ。お前の歳のころなんて俺はまだ、試合に出られなかった。4年目、5年目まで試合に全然出られなかったんだから、お前はいい経験をしているんだよ』って、話がしやすい(笑)。

 やっぱり、今思うとあの時間はすごくいい経験だったので。(力をこめて)若いころにしかできないプレーというのはたくさんあるから。だから無理をしてでも、若いやつには頑張ってほしい。多少チームのバランスが崩れたとしても、ゴールに直結するようなプレーも若い時期なら許されるから。もちろん、あまりやりすぎるのも問題だけど(笑)。

 学生時代はたくさん叱られて育った。自分から動き出さなくて、監督やコーチがいろいろと教えてくれた。でも。プロになると、誰も何も言ってはくれないし、手を差し伸べてくれるわけでもない。そんな甘い世界じゃない。だから、選手自身が考えなくちゃいけない。そのうえで、僕のアドバイスがその選手の力になれたら嬉しいですよ」

――ピッチ外での時間が選手としての引き出しを増やしてくれるのかもしれませんね。そういう意味では、ベンチに座る時間、試合に出られない時間は本当に大事。

「選手なんだから、試合に出たいのは当然。でも、たとえ試合に出られなくとも、築けるものはある。僕は鹿島にしかいないから、他のクラブのことはわからない。ただ、長い目で選手生活を見たとき、いわゆる勢いだけで走れる時間は非常に短いと思う。試合に出られない間にその土台を作る時間があって、僕は恵まれていました。いいチームメイトがいて、厳しさもあり、鹿島は選手が育つうえでの環境は整っている。だからこそ、あとは自分次第。今をどう感じ、何をするのか? サッカーで一番大事なのは、気持ちの部分。そこが大きい」

――「気持ちって、具体的にはなんでしょうか?」という選手もいるかもしれない。

「そこは自分で考えてほしいなと思います(笑)。言葉だけじゃなくて、先輩の背中や振る舞いにも学びのヒントはたくさん隠されているから。それに気づき、自分で考えないと力にはならないから」
(つづく)

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