【育将・今西和男】風間八宏「骨身を惜しまず、信頼関係を築いてきた人」 (2ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko  織田桂子●写真 photo by Oda Keiko

 それは鶴見俊輔と久野収という哲学者同士の対談の次のページに組まれた。同記事の中で、今西は風間をスカウトした理由を「ブラジルの外国人選手を入れて派手にやることもできるでしょう。ただ、私はチームのきちっとした骨組みを作りたいし、それがマツダのやり方だとも思っているんです」と語り、呼応するように風間は「プロってお金じゃなく、仕事なんです。責任のことです。お金は責任への報酬なんですね」と応えている。まさにプロとして、自らの責任を果たそうとして広島のチームに参入した。

 しかし、いざマツダの練習に参加してみると、そのギャップは想像以上だった。

「こんなにも遅いのかよ、 というのが正直な感想でしたね。プレーも判断も、ドイツに比べると本当に遅かった。今西さんは真っ白なチームと言っていたけど、これでは確かに色も何も付いてないよなと」

 今西は即座にキャプテンに指名しようとしたが、風間は「いや、マッさん(松田浩)にお願いしましょう」と一歩引いた立場で、初年度はチームの様子を見ようとした。「チームメイトがどういう人たちか見なきゃいけないし、リーダーは他の人がいいと思ったんです」。

 それでも、いざシーズンが開幕すれば遠慮はなかった。試合に負けたにもかかわらず、シャワー室で「まあ、次があるよ」と談笑している先輩には「てめえら、一生、そう言ってろ!」とシャンプーを投げつけた。ピッチ上での要求も遠慮会釈がなかった。

 試合中、走り込むスペースに出してくれれば1点という場面で、ある先輩のパスが手前で滞った。「そこじゃない、ここだ!」「ごめん、ごめん」。しばらくして同じ局面が整った。再び裏へ抜けようとすると、またも同じミスパスが来た。次の瞬間、風間は試合中にもかかわらず、いきなり先輩の胸ぐらを掴んでいた。 「はっきりしろ! 謝らなくていい。できねえならできねえと言え! そうしたら俺が引くから。出来るならちゃんと出せ!」

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