小林祐三(横浜FM)のSB論。「守りでは誰にも負けない」 (6ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Fujita Masato

「日本代表にいる選手たちは上のステージにいるんだろうな、とは思います」

 小林は穏やかな表情で言葉を吐きだした。

「本田とか、ユースで一緒に日の丸をつけてた選手が海外のトップクラブでプレイしているのは、すごいことですよ。ただ、不思議と焦りはない。今はJリーグの選手として自信を持ってプレイできているからでしょうね。ただ、今よりもっとすごい相手とやってみたい、という衝動はあります」

 それは日本代表として戦うブラジルW杯のような国際舞台かもしれない。コンフェデレーションズ杯を見れば明らかなように、世界の強豪を前にしては日本が守勢にまわらざるを得ない時間もあるだろう。そんなときこそ、小林の守備者としての作法は輝く。粛々と相手の動きを封じ、試合の流れを自軍に取り戻すことができるはずだ。

 日の丸を背負い、異次元を体験したことがないわけではない。

 2005年のワールドユース、オランダ戦で相対したクインシー・オウス=アベイエ(現在はガーナ代表)に小林は度肝を抜かれたという。前半は3人がかりでも止められないドリブルに焦りを感じた。試合の経過とともに立ち直り、後半は仕事をさせなかったものの、惜しくも試合は敗れている。

「今こそ、クインシーのようなすごいアタッカーとやってみたいですね」

 人一倍負けるのが嫌いな男は、双眸(そうぼう)を光らせた。
 
 2013年7月13日、日産スタジアム。優勝を争う横浜F・マリノスはJリーグ第15節、首位の大宮アルディージャを本拠地に迎えている。

 13番を背負った小林祐三はこの夜、ディフェンダーとしてのセンスと献身を改めて強く感じさせた。栗原がポジションを失いカウンターを浴びた瞬間、カバーに入り、完璧な動作でボールを奪い返したシーンは象徴的だ。

「あれは相手に先にボールに触らせ、フリーだと思わせてからさっと奪う技術なんです。まあ、誰も気付いてないと思いますけど」

 言葉とは裏腹に、彼は満足げに目を細めた。攻撃でも右サイドを支配。スペースを作って巧みにボールを引き出し、効果的な攻めを繰り返した。先制点は彼の突破がカオスを与えた直後だった。

 前半の終了間際に眩暈(めまい)を覚え、大事を取る形で後半65分で退いたが、それまではほぼ完璧なプレイを見せ、2-1の勝利に貢献している。

「代表ですか? 意識するほども周りに言ってもらってませんから」

 小林はあけすけに笑い、髪を撫でた。マリノスは首位に肉迫。代表に選ばれようと選ばれまいと、彼は変わらずに粛々と戦い続ける。

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