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サッカー日本代表史上最高のストライカー 釜本邦茂は何がすごかったのか 都並敏史&後藤健生の証言 (2ページ目)

【右45度とニアと見せて後ろへ引く動き】

都並 僕は金田喜稔さんと一緒に釜本さんに直接お話を聞いたことがあるんです。あの右45度からのシュートをどのように習得したのかと。ドイツに行った時にエウゼビオのビデオを手に入れて、もう擦りきれるくらい見たとか。

後藤 ザールブリュッケンに留学した時に、クラブにビデオだかフィルムがあって、それをずっと見ていたという話ですね。

都並 ただ、エウゼビオのマネをしようとすると、釜本さんは足が大きいから、ツマ先が芝生に引っかかってしまうと。それで釜本さんのシュートフォームって軸足が開いている感じなんですが、ツマ先が引っかからないようにその形で蹴る練習をしたそうなんです。

 僕はいろんなFWのポスターを部屋に飾っていたんですけど、釜本さんだけ軸足のヒザがぐっと曲がっているんです。

後藤 そうなんだよね。マネしちゃいけないか、マネできないかといった感じで。

 すごいなと思うのは、あの当時でドイツに留学させようというところ。あれは1968年のことなんです。釜本というタレントをとにかく育てようと日本中が一生懸命やったんですよ。

都並 だからもう突然変異ですよね、釜本さんだけは。他のいい選手がたくさんいたとしても、特別にすごい。

後藤 それはだってワールドクラス間違いなしだから。日本の中でじゃなくて、世界的に見てもああいうなんでもできるストライカーっていないですよね。

都並 例えば大迫勇也のポストプレーと、上田綺世の抜け出しからのシュートもできる。でもいちばんすごいのは、なんでもうまいところ。ポストプレーをやるにしても、こうガチャガチャしてなくて、すっとボールを受けて、前向いて、味方に渡せる。エレガントですよね、実は。

後藤 最晩年であまり動かなくなった時は、みんな「交通整理」とか悪口を言ってたわけ。だけど、そこで立ってるだけでもポジショニングがいいから、きちんと味方につなげる。

 あと意外なのは公称179cmだというところ。

都並 本当はもっと大きいですよね?

後藤 もっと大きいけど、なぜか知らないけどかっこ悪いからって179。

都並 182、3cmくらいですかね。

後藤 そうそう。とにかく大きく見えた。

都並 僕らの時代ではひと際抜けた体格を持っていて、足は100m走が速いってわけではないけど、瞬間の速さや相手から離れるうまさはちょっと特別だった。

後藤 それがみんなあとから身につけたものなんだよね。高校時代の釜本さんは「熊」って言われていたらしい。だからドイツに行ってスピードが必要だというのを痛感して、スピードを身につけた。右足だけの選手だったのが、左足でもプレーしなきゃと左も身につけた。最後はもう、右でも左でも頭でも、どっからでも点を取れる選手になっちゃった。ヘディングだって、もともとは全然しなかったらしい。

都並 ニアに行く動きで相手を釣ってからスッと後ろに引いて、相手の頭越しに来るボールを胸で受けて「ドン!」ってシュートを決めるのが本当得意だったんですけど、これも本人から聞いた話があります。

 釜本さんの所属していたヤンマーに、今村博治さんという7番の右ウイングがいたんです。釜本さんは今村さんに「俺の練習に毎日100本付き合え」と。どういう練習かって言うと、ゴールをですね、もう1個持ってきてゴール前に横に置くらしいんですよ。そのゴールをギリギリ越えるボールを右サイドから蹴ってこいと。「それができたらお前を日本代表にしてやる」と釜本さんは言ったらしいんですが、実際そうなったんです。

 そのクロスって、釜本さんがニアの動きで相手を釣ってから引いて受ける時のイメージなんですよ。

後藤 昔は一芸というか、いろんなことはできないけど、これをやらせたら正確に再現できるという選手がいましたよね。

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