パリオリンピック男子サッカー「日本だけオーバーエイジなし」問題をこのままスルーしていいのか (3ページ目)
【ロス五輪はどうするのか】
その国の"サッカー偏差値"は、サッカー界を構成する要素の平均値で構成される。選手、監督、協会、ファン、メディア、審判、スタジアム、観衆、国内リーグ、各クラブ等々がその要素になるが、時にそれらは足を引っ張り合い、相殺する関係になる。選手のレベルが60でも、他のレベルがそれ以下なら、その国のサッカー偏差値は60を下回ることになる。
それはともかく、筆者は五輪にU-23で臨むこと自体は悪くない姿勢だと思っている。
それは五輪のサッカーが、そもそも何の世界一を競う大会なのか、判然としないからだ。むしろ全力を傾けるにはリスクの多い大会だと見る。だが、1968年メキシコ五輪で獲得した銅メダルの呪縛にはまってしまった日本サッカー界は、五輪を過大評価し、W杯と五輪をクルマの両輪のように捉え、他国より確実に五輪チームの強化に力を入れてきた。U-23日本代表で構成される五輪チームは、常に期待の星として存在してきた。
その流れと訣別した結果なら問題はない。五輪をU-23の強化の場に充てようとしたなら、筆者はその判断に拍手を送りたい。だが、山本氏は「各クラブと連絡を取り合いながら、昨日まで全力で努力してきた」と述べた。サッカー協会は従来どおり、全力で臨もうとしたのだ。
もうひとつの疑問は、オーバーエイジをなぜ欧州組にこだわったのかという点だ。今回の「18人+4人」より、Jリーグで活躍している選手、出場機会の多い選手は確実にいる。もちろん実力上位の選手もいる。ひとりやふたりではない。現役の日本代表選手もいる。「金メダル」と言いながら、これも実は、全力で臨んでいないと疑いたくなる大きな理由だ。
次回のロス五輪はどうするのか。今後、五輪にはどのような姿勢で臨むのか。協会は各クラブとの交渉能力をどう高めていこうとしているのか。この際、詳らかにしてほしいものである。きちんと説明せずに先に進むべきではない。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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