トルシエが見た森保ジャパンの現状「一部の選手のメンタリティが崩れてしまっていた」 (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・構成 text by Shino Yukihiko
  • フローラン・ダバディ●通訳

――そこには、どういった原因があるのでしょうか。

トルシエ それは一部の選手の「100%の力を出しきる」というメンタリティが崩れてしまっていることを意味すると思います。強豪国の選手たちの多くは、欧州5大リーグのクラブでプレーしていて、シーズンの途中で大会に参加しています。

 彼らは決して意識的に力をセーブしているわけではないけれど、無意識的に「大会が終わったらタフな残りのシーズンが待っている」「ここで怪我をするわけにはいかない」というプレッシャーが働いていたはずです。

 そうしたプレッシャーを一掃することができなかったのだと思います。これは、現代のサッカー界、アジアやアフリカの強豪国が抱える大きな課題です。モチベーションの違いと言ったら平たく言いすぎているかもしれませんが、そうしたメンタル的な差はあったと思います。

――欧州のクラブでプレーするアジアの選手が増えたことで、すべての選手たちのモチベーションをアジアカップに照準を合わせることが難しくなっている、と。

トルシエ これはあくまで私の持論ですが、強豪チームであればあるほど、強い個性を持った選手やスター選手を多く抱えています。そのなかで、大きく分けてふたつのタイプの監督が存在していると思います。

 ひとつはトップレベルの経験がある選手たちをあまり縛らず、彼らの想像力を生かし、自由を与えて、信頼するタイプの監督。もうひとつはスター選手でも特別扱いはせず、競争させる監督。私は後者のタイプですが、やはりいくらスター選手でもチームのなかで懸命に走り回り、ハードワークをするというベースがなければいけません。

 代表チームは練習時間がないなかで、その基本中の基本をやらなければ、いくらスター選手がいてもチームは強くならないと思います。それは、特定のクラブや日本代表のことを言っているわけではなく、私の持論としてそうした考えを持っているというだけです。

(つづく)◆ベトナム代表に日本人選手をひとり連れていけるとしたら誰?>>

通訳のダバティ氏(左)とトルシエ監督。photo by Fujimaki Goh通訳のダバティ氏(左)とトルシエ監督。photo by Fujimaki Gohこの記事に関連する写真を見るフィリップ・トルシエ
1955年3月21日生まれ。フランス出身。28歳で指導者に転身。フランス下部リーグのクラブなどで監督を務めたあと、アフリカ各国の代表チームで手腕を発揮。1998年フランスW杯では南アフリカ代表の監督を務める。その後、日本代表監督に就任。年代別代表チームも指揮して、U-20代表では1999年ワールドユース準優勝へ、U-23代表では2000年シドニー五輪ベスト8へと導く。その後、2002年日韓W杯では日本にW杯初勝利、初の決勝トーナメント進出という快挙をもたらした。現在はベトナム代表を指揮。

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