トルシエが「森保には心から驚いた」と絶賛するわけ。W杯後に日本で起こったPK論争には疑問を呈す (2ページ目)

  • 田村修一●取材・文 text by Tamura Shuichi
  • photo by JMPA

 4バックから3バックへの移行。しかもアウトサイドの選手を、DFの酒井宏樹と長友佑都から三笘薫と伊東純也に代えたことに、トルシエは感銘を受けた。

「(3バックに移行してから)左右のバランスはよく取れていた。4バックのままではできないことだ。面白いのは、それが2002年のチームの哲学でもあったことだ。20年が経った今も、同じコンセプトのもとにサイドに攻撃的な選手を配してチームを構築できる。

 森保の戦略は選手とともにあるが、三笘も伊東も驚きではなかった。彼らがポリバレントであることはわかっていた。戦術的な適応能力が高く、能力の高さは彼らが海外でプレーすることにより得られたものだ。ポリバレントな能力の高さが、森保がチームに大きな戦術変更を加えることを可能にした」

 森保にはゲームを読む高い能力がある。どうすればチームに戦術的な変更が加えられるかを彼はよくわかっているというのが、トルシエの森保評でもある。

「プロフォンダー(縦の深さ)を強化し、相手に疑念と不安を植えつけた。ドイツの監督にもスペインの監督にも、それに対応する能力はなく、彼らはパニックに陥った。

 これまでは力関係で日本を上回り、完全にゲームを支配していたから、チームを大きく修正する必要に迫られたことはなかったのだろう。(スペイン代表の)ルイス・エンリケも(ドイツ代表の)ハンジ・フリックも、どうしていいかわからなくなり、パニックに陥った」

 一方、モロッコの躍進は、レグラギが作り出したダイナミズムから生まれた。

 前任者のヴァイッド・ハリルホジッチが構築したのは、規律に溢れた厳格なチームだった。選手には厳密は役割が与えられ、戦術面ではハリルホジッチの課す大きな制約があった。従わない選手はどれほどのスターであろうと彼は切り捨て、そのためにメディアとの間に大きな論争が勃発した。記者会見は常に紛糾し、両者の緊張感は日に日に高まっていった。

 そんななかで、モロッコ協会はハリルホジッチを解任し、レグラギを後任に指名したのだった。W杯開幕を3カ月後に控えての突然の交代ではあったが、過去にコートジボワールや日本でも繰り返されたことであり、さほどの驚きはなかった。

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