W杯史上、究極のジャイアントキリングを達成した日本の驚くべきデータ。パス1000本を駆使したスペイン相手に、シュートわずか6本で勝ちきる (3ページ目)
弱者に徹した戦術が機能
とはいえ、1点のビハインドを背負っている以上、そのまま自陣で守ってばかりはいられない。そこで森保監督は、後半開始から長友に代えて三笘薫を、久保に代えて堂安律を投入。これが攻撃のサインと言わんばかりに、立ち上がりの48分、それまで見せなかった前からのプレスを一気に仕掛けた。
バックパスを受けたGKに対する前田の猛烈なプレスを皮切りに、左サイドで鎌田と三笘がハイプレスを仕掛けると、焦ったスペインは出口を失い再びGKにボールを戻すと、前田のプレスを浴びたGKが左SBバルデにラフなパスを展開。それを猛スピードでプレスにきた伊東が頭でカットすると、そのこぼれ球を回収した堂安が左足でゴールに突き刺した。
さらにその3分後には、自陣FKでGK権田修一が右サイドにロングフィード。この時、伊東を見なければいけないダニ・オルモの戻りが遅れたことでフリーの伊東につながると、田中を経由して堂安が素早くクロス。ラインギリギリで足を伸ばした三笘の折り返しに田中が詰めて、あっという間に逆転に成功。まさしく絵に描いたような奇襲攻撃だった。
以降、再び「攻めるスペイン、守る日本」という構図で試合が展開するなか、左SBに攻撃的なジョルディ・アルバが起用されると、森保監督は61試合目にして冨安健洋を初めて右WBで起用し、さらに守備を強化。スペインは最後まで日本のコンパクトな5-4-1を崩しきれず、わずか約5分間で2点を奪った日本が大金星を飾っている。
結局、W杯史上最高のボール支配率78%を記録したスペインは、初戦のコスタリカ戦を上回る1070本のパスをマーク(成功992本)。対する日本は、ボール支配率14%(中立8%)、パス本数わずか224本(成功166本)と圧倒されながら、シュート6本のうち2本をゴールにつなげることに成功。究極のジャイアントキリングをやってのけた。
もちろん、両チームの5分おきのパス本数を比べても、日本が上回ったのは後半開始46~50分までの時間帯のみ(日本=26本、スペイン=12本)。最終的には、弱者に徹した戦術がこれ以上ないかたちで機能したことが、最大の勝因と言えるだろう。
ボールを持つよりも、相手に持たれるほうが圧倒的に勝つ確率が上がるサッカー。これまでW杯本番に向けて取り組んできたプレスを浴びるなかでのビルドアップや、ショートカウンター狙いのハイプレス戦術を捨てた日本は、その内容云々は別として、まったく別のチームに生まれ変わったように見受けられる。
果たして、5日のクロアチア戦も同じような戦い方を選択するのか。ドイツやスペインとは違った特徴を持つクロアチアに対し、森保監督がどのような戦術を準備して、どのような采配を見せるのか。そこが勝敗のカギとなる。
【筆者プロフィール】
中山淳(なかやま・あつし)
1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部勤務、同誌編集長を経て独立。スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカーおよびスポーツメディアに執筆。サッカー中継の解説、サッカー関連番組にも出演する。
◆【画像・写真】サッカー日本代表カタールW杯の激闘フォトギャラリー
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