日本代表・水沼宏太が見せた「チームを勝たせる」プレー。「アピールは大事ですが...」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 E-1選手権の開幕戦、香港戦のピッチに立った水沼宏太(横浜F・マリノス)は、整然とプレーしていた。そこに32歳にして代表初招集という気負いは見えなかった。相手が一度肌を合わせただけで「格下」とわかるだけの実力差もあったにせよ、試合の流れをすぐにつかんでいた。

 右サイドから得意の右足クロスをニア、ファーに振り分ける。そのクオリティが他の選手と段違いだった。同じように見えても球質が異なり、角度や球速や回転までも工夫されているからこそ、際どいシーンを演出した。

 目立ったのは周囲との連係で、右サイドを中心にリズムを作っていた点だろう。タイミングを外して持ち上がってマイナスのパスをつける。あるいは、自ら切り込んで左足で際どいシュートを放った。勝負してやろう、という力みがなく、ポジショニングやタイミングだけで圧倒していた。

 後半には、さらにペースを上げている。右サイドバックの山根視来の上がりを引き出し、そのクロスがダメ押し点になった。また、右タッチラインまで開いて幅を作って鋭いクロスをニアに流し込むと、敵GKがこぼしたところを味方が押し込んだ。

日本代表デビューとなった香港戦で多くの好機をつくった水沼宏太日本代表デビューとなった香港戦で多くの好機をつくった水沼宏太この記事に関連する写真を見る 水沼が下がったあと、日本のチャンスは明らかに少なくなっている。実際、得点も生まれていない。そのキャラクターを解き明かすことで、カタールW杯に向けた代表のラストピースになる可能性が見えてくる。

 水沼は特別なスピードやめくるめくドリブルを見せるわけではない。サイドバック、ボランチ、トップ、あるいは逆サイドの選手とまで調和し、味方を輝かせ、自らも輝く。

「水沼選手はクロスに特徴があるので、そこに入れるようなポジションを取るようにしました。いつもはもう少し外で待っているのですが、内側にポジションを、というのは意識して......」

 香港戦後、左サイドアタッカーの相馬勇紀はそう語っていた。クロスが来ると信じて選手が入っていける。そこに連係が生まれるのだ。

 水沼は、ボールを失わない、パスが出てくる、という点で信頼されていた。それがチームにオートマチズムを生み出し、スピード感につながり、変幻のプレーにつながる。フリックやワンフェイトではがすプレーに結びつき、一気に守備陣を崩せるのだ。

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