なでしこ熊谷の涙。若手のチャレンジを支えたベテラン4人の想い (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 今大会で最も難しい立場だったのは阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)かもしれない。ケガの完治が遅れ、それを承知で高倉麻子監督は彼女を招集していた。最後まで練習ではフルメニューをこなすことはなかったが、オランダ戦のピッチサイドでは、給水に選手たちが戻ってくるたびに、長谷川や三浦にポジションやスペースなど、気がついたことを積極的に伝えに出ていく姿を幾度も目にした。

 日本の若手がロッカーに下がり始めると、大会を通して初めてベテラン4人がピッチに集まった。この4人にしかわからない想いがある。過去からつないできた想いがある。ここでは熊谷も鮫島も落胆を隠す必要がない。宇津木がそっと、落ち込む熊谷の両肩に手を置いた。

 できることはすべてやった。しかしできないことも多かった。これが最後のワールドカップと考えている選手もいるかもしれない。その覚悟で臨むと口にしていたのは、鮫島だけではなかった。若手は、最初のワールドカップはチャレンジ精神のみで貫ける。それをひたすらカバーし続けた彼女たちベテランの目に、このワールドカップはどう映ったのだろうか。

 スタンドからのエールが響いた。それに気づいた4人は、それぞれ深々とお辞儀をしてフランスのピッチをあとにした。

 ワールドカップで上位進出を狙うチームは、決勝トーナメントのどこかで、もしくは大会を通して越えなければならない大きな壁にぶち当たる。それを越えたとき、目に見えない上昇気流が巻き起こる。日本はその流れを生み出す寸前までいったものの、壁を乗り越える力はまだ備わっていなかった。

 しかしこの一戦で、チーム全体で掴むその力の欠片は見つけられたのではないだろうか。ラウンド16敗退という結果に満足する者は一人もいないだろう。ただ、オランダ戦は間違いなく、この大会でなでしこジャパンが見せたベストゲームだった。

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