「南アW杯のゴールを守れない悔しさ」が、今も川口能活のエネルギーに (3ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 川口も、時には気持ちが折れそうになったり、難しい表情を浮かべてしまうときがあったりしたが、すべて飲み込んでいた。南アフリカW杯における日本の快進撃は、こうしたベテラン選手たちの"献身"と"想い"によって実現したことを、どれほどの人が理解しているのだろうか。

「我慢というか、自分の役割に徹することができたのは、やっぱりドイツ大会の二の舞を演じてはいけない、という気持ちが強かったからだと思う。あの大会は(自分も)31歳で、経験も積んで一番体が動いていたし、アジアカップから最終予選までずっとゴールマウスを守り続けてきたので、自分の中で期するものがあった。メンバーも素晴らしい選手ばかりでした。でも、オーストラリア戦の敗戦でチームはまとまり切れず、結果も出なかった。

(南アフリカW杯のときは)そんなドイツ大会のような悔しい思いは、もう二度としたくないと思っていましたからね」

 川口はそう言うと、少し間を置いてこう続けた。

「南アに自分が呼ばれたのは、そういう経験もあって『チームをまとめてほしい』ということだったと思います。でも、結果が出なければ、僕が行った意味がなくなってしまう。2010年大会は、自分にとって"最後"という覚悟もあったので、チームに何かを残したいと思ってやってきた。そして、幸いベスト16という結果が残せました。

 ただ、選手としてはどうなんだろう......。何も残せていない。やはり、ゴールマウスを守れなかった、その悔しさがずっと自分の中に残っていました」

 そう語る川口の厳しい表情を見ていると、大会中、本当はとても苦しい状態にあったことがよくわかる。だが、それに耐えられるだけの、たくましい"人間力"が彼には備わっていた。

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