北澤豪が語る「あの事件」へのプロセス。代表は暗く、沈んでいた... (3ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 そういう状態だったので、これは『みんなと喧嘩するしかないな』って思った。当たり障りのないサッカーをやっていて、闘争心が感じられないから、練習中から削りにいった。『いてぇな、コノヤロー!』って相手は怒るけど、それがきっかけになって話ができると思ったし、やっぱり試合は闘争心が大事。次のUAE戦では一層そういう気持ちが必要だったし、やらないといけない試合だった。(選手やチーム全体に)そうした気持ちをよみがえらすためにも、意図的にやっていた」

 当時、キャプテンの井原正巳やエースのカズ(三浦知良)は、どちらかと言えば、気持ちや言葉で引っ張るタイプではなく、プレーで引っ張るタイプだった。4年前のW杯最終予選、ドーハで戦ったときのチームには、ラモス瑠偉、柱谷哲二、中山雅史など、ピッチ上で闘争心をむき出しにしてプレーし、雰囲気を変えられる選手がたくさんいた。しかし、このときのチームは淡々とプレーする、おとなしい選手が多かった。

 その分、北澤は練習中から気持ちを前面に押し出し、激しいゲキを飛ばした。チーム内に活気を取り戻すため、あえて"悪役"も買って出た。例えば、バスで移動中、何かしら不満を漏らしている選手に対しては、後ろからモノをぶつけて、その選手からの跳ね返りを待った。また、ある選手が『こう動いたら、こうじゃないですか』と、理論的な細かい話をしてきたときには、『おまえ、それだからダメなんだよ。こんな状況のときに、頭で考えていたってしょうがないだろ』と言い返し、その選手を泣かせたこともあった。

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