日本が初出場したW杯。帰国した
城彰二を襲った「あの事件」に迫る (3ページ目)
一挙一動が注目され、日本のエースストライカーになったというプレッシャーは、城の体にさまざまな異変を起こした。食事が喉を通らなくなり、たとえ食べても夜中に突然目が覚めて嘔吐した。結果、それがつらくて、あまり食事を摂らなくなった。
食が細くなり、元気のない城の異変にチームメイトたちは気づいていた。だが、「なんで食べないんだ」と声をかけてくるような選手はいなかった。まるで腫れ物に触るような扱いで、誰もが城のことを遠巻きに見ているだけだった。
唯一、キャプテンの井原正巳がそんな城の姿を見かねて、「彰二、カズさんのことや、周囲の視線とか気にするな。おまえはおまえのプレーをすればいいんだよ」と言って、声をかけてくれた。
このとき、城は痛感したという。それまでは、こうしたさまざまなプレッシャーを、カズがひとりで受け止めてくれていたことを。
「カズさんがずっと、いろいろなプレッシャーの壁になってくれていたんだよね。だから、俺たちにかかるプレッシャーなんて大したことはなかった。でも、カズさんがいなくなって、いきなり自分に全部のしかかってきた。ケガをしているとか、どこか痛いとか、そんなことは絶対に言えないし、『精神的なプレッシャーを感じているんです』とか、泣き言も言えない。
攻撃も俺が中心になっていたから、責任は重大だし、点を取らないといけないっていうプレッシャーを、チーム内だけじゃなく、メディアやファン、サポーターからもすごく感じた。これって何だ?って思ったね。これが、日本代表のエースとして戦わなければいけない"本物のプレッシャー"なんだなっていうのを初めて実感した」
1998年W杯ではプレッシャーに押し潰されそうになりながら懸命にプレーした。photo by AFLO
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