田口泰士「日本代表に選ばれ、地元沖縄の人が見てくれた」 (4ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Sueishi Naoyoshi

 ようやく見つけた駐車場で、偶然28番が空いていたのを見つけた。思わず頬が綻(ほころ)ぶ。名古屋で付けている背番号だ。

「実際に代表に入ってみて、雰囲気を味わえたのは収穫なのかもしれません。レベルが分かったというか。みんなやっぱりうまいですけど、驚くほどでもなくて。アジアカップに選ばれるか? そういうこと、オレはあんまり考えていないです。アジアカップをどう戦うか、なんて考えるのは、常連の本田(圭佑)さんとかでしょ? オレはとりあえず、もうすぐオフだな、という感じです」

 彼らしい本音だろう。代表に選ばれた誇りとか、それに恥じないようにとか、そんなことで自分を高めるタイプではない。だからといって、勝負事には一切の妥協がなく、驚くほどの集中力を見せることも事実だ。

「日本代表に選ばれたことで、地元沖縄の人が見てくれて、親とかもいろんな人に連絡をもらったりするじゃないですか? 例えば塾に通っていたときの先生とか。そういうのは嬉しいんですよ。みんなの期待に応えたいな、というのはあるんです。でも、そればかり考えているとダメ。オレは張り切りすぎるとうまくいかないから。覚悟とか、決心とか、大げさに考えると、いいプレイができなくなる」

 なんくるないさー。

 田口は“どうにかなるさ”という沖縄の言葉を、サインで「なにかメッセージを」と頼まれたときに書き込む。「なんくるないさー」は、沖縄の人のゆったりとした生き方の象徴として使われるが、実は頑張っている人しか使えないフレーズらしい。

「なんで、自分が使っていいのか分からないですけどね」

 彼は苦笑しながらも、こう言葉を継いだ。

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