北嶋秀朗から工藤壮人へ。「代表入りのために今、必要なこと」 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 長田洋平/アフロスポーツ●写真 photo by Nagata Youhei/AFLO SPORTS

 2014年4月13日、ロアッソ熊本のコーチを務める北嶋秀朗は、うまかな・よかなスタジアムでのカマタマーレ讃岐戦に4-1で勝利し、しばしその成果を喜んだ。しかし2013年シーズンで17年間の選手生活にピリオドを打った男は、現役時代のように悦に浸っている暇はなかった。

 試合後はビデオ編集に追われる。デスクワークの時間が増えた。手元にあるチョコレートをつまみながらスカウティングビデオを作るので、引退して半年足らずで体重が4kgも増えてしまった。

「指導者としては新参者ですから、今はすべてが勉強です」。深夜までビデオ編集をしていた北嶋はレストランでパスタをオーダーし、一気に胃袋に押し入れた。すでに日付を超えていた。

「知り合いに会うたび、目が優しくなったと言われます。選手のときの"牙"は抜けたのかもしれません。でも、指導現場では負けたくないですよ。今日も自分の話していたプレイを選手が出してくれて、興奮して涙が出ました。選手の力を引き上げたい、その気持ちは強い。変な話、選手時代はあまり好きではなかった選手にも同じ愛情が持て、なんとかして力になりたいんです」

 北嶋は選手から指導者へ、着実に変身を遂げつつある。レイソルで長く背負った背番号9は、工藤へ継承されている。

「9番は絶対に工藤に着けてもらいたいと思っていましたね」と北嶋は強い口調で言う。

「でも、俺があいつになにか言うのはおこがましい。工藤はゴールをとり続け、ここまで大きくなった。最近はメンタルの部分が進化しました。元々、負けん気は強かったけど、完全に自立しましたね。今は常に、“レイソルを背負う”ということを自分に問いながらプレイしている。俺が言うことは何もないですよ」

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