【プロ野球】球団スタッフが語る「天性の人たらし」中田翔、引退を決断した「チームに迷惑をかけたくない」の真意 (2ページ目)
中田本人に聞いてみたところ、「いや、オレはやらなくていいよ。でもまあ、若い子に言われたら考えなくもないけど」との返答だった。そこでチームの元気印であるブライト健太に、中田を促すよう頼んだ。さらに映像担当にも「いい絵が撮れるぞ」と連絡を入れておいた。この時の様子は、球団公式YouTubeでご覧いただける。
声出しすることで中田がチームに馴染み、ベンチの空気もよくなる。その様子を、動画を通してファンのみなさんが楽しむ。まさに"win-win-win"である。
この機転は、ファイターズ時代に培った広報マインドによるものだ。球団広報とは、取材を右から左へとこなすだけの"信号機"ではなく、自ら仕掛けるものだと教えられた。中田が引き寄せた個性豊かなメディアの方々と、ある時はぶつかり、ある時は共闘しながら得た経験が原点だ。
【チームに迷惑をかけたくない】
今年の春先から、中田の弱気な言葉をよく耳にした。引退をにおわせる言葉も吐いていた。そんな彼の本音を前に、うわべだけの励ましなど虚しいだけだ。だから私は、「そうか、辛いな。でも、オレ個人の気持ちとしては、最後にもうひと花咲かせる翔を見たい」と伝えるのが精一杯だった
先月、引退の意思を伝えてくれた中田は、そのあとも言葉を続けた。
引退の理由は、満足に動くことのできない腰の状態と、プロ入りして初めて経験したという自分のスイングを見失ったこと。そして、この状態で一軍に出続けるならばチームに迷惑をかけることになり、それを彼自身が受け入れることができないとのことだった。
「チームに迷惑をかける」と、引退を前にしてメディアに語る選手は多い。この言葉を聞くたびに、これは選手の本心ではなく、単に社会に対して体裁を保つためのものではないのかと、穿った見方をしている自分がいた。しかし、中田の説明には納得がいった。
彼の言う「チームに迷惑をかけたくない」の真意は、「満足に働けない自分が一軍枠をひとつ抱えることで、若手の活躍の場を奪いたくない」であった。
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