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西武・山田陽翔は3年目の今季、いかにして覚醒したのか? 甲子園のスターが直面したプロの壁と試行錯誤の2年 (4ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke

【身長差を埋めた並進スピード】

 ピッチングとは、身体全体を使っていかにボールに力を伝えるかという行為だ。

 175センチの山田は、プロでは身長の低い部類に入る。一般的に長身選手のほうが球速を出しやすく、NPB平均より約5センチ低い山田は不利とされる。

 そんな"常識"を少し異なる角度から捉えるようになったのは、今季開幕前、西武の先輩で自身より2センチ低い平良海馬と自主トレを行なった時だった。

「たとえば身長2メートルの選手は腕も長いですし、遠心力で投げられます。背が高い分、位置エネルギーを使って投げることもできる。自分はそのどちらも使えないとなると、横にいく(=並進運動)スピードで出すしかなくて。それは当たり前のことだと思い込んでいて、特に考えていなかったんです。

 球速100キロを投げる人が並進速度を10キロ上げだけで110キロになるという、単純計算がそもそもできていなくて。確かに並進のスピードを上げることによって、簡単に球速が上がるんだなと平良さんとの自主トレで思いました。その大切さを学んで理解して、上げようと頑張っています」

 山田のストレートの平均球速は140キロ台前半。NPBでは遅い部類に入るが、今季27登板で失点を許したのは2試合しかない。

 なぜ、ここまで打者を抑えられるのだろうか。

「しっかり真っすぐや変化球で、バランスよくゾーン内で勝負できているので。打者に的を絞らせず、結果、芯を外してゴロを量産できている。要所ではしっかり三振も奪えていますし。ジャストミートという当たりが減ってきたので、それは今の自分のスタイルからしてもいい影響が大きいのかなと思います」

 自分のスタイル──。

 MLBのデータ分析ウェブサイト「Baseball Savant」のように詳細なデータがあれば、山田のすごさはもっとわかりやすく伝わり、さらに脚光を浴びていたかもしれない。

 独特の投球フォームで投げ込む山田は、平均から外れた、じつにモダンでクレバーな投手なのだ。

つづく>>


山田陽翔(やまだ・はると)/2004年5月9日生まれ、滋賀県出身。近江高校では投打でチームを牽引し、甲子園に3度出場。2年夏ベスト4、3年春の選抜で準優勝、夏はベスト4に進出するなど、歴代5位の甲子園通算11勝を挙げた。22年のドラフトで西武から5位指名を受けて入団。1年目、2年目はファームで過ごしたが、3年目の25年シーズン、初の一軍登板を果たすと、その後もリリーフとして活躍。

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