世紀の乱闘事件、野村克也の生涯唯一の退場劇... 名審判が振り返るプロ野球名シーンの舞台裏 (4ページ目)
── ファンとしては、「珍プレー・好プレー」ではないですが、たまに抗議や乱闘も見たい気がします。
小林 試合中のトラブルは、ある意味つきものです。ボールやストライクの判定以外では、監督とのやり取りで観客を長く待たせないよう、短時間で抗議をうまく収められるかどうかが、審判員の技量の差につながります。
── 「正確なジャッジの説明」なり「ルールの適用」なり、言わば、審判の腕の見せどころですよね。
小林 私たちのように、監督の抗議を受けながらゲームコントロールをしてきた世代の審判からすると、誤解があったら申し訳ないですが、今のリクエスト制度があれば、もう少し長く現役を続けられたのではないかという感覚があります。何かあればすべて機械が最終判定をしてくれて、文句も言われなくなるわけですから。
── アメリカの3Aや韓国プロ野球は「ロボット審判」が導入されています。審判の存在意義に関してどう思いますか?
小林 機械が判定するという「割り切り」ができてしまいました。しかし、本来はアウトかセーフか微妙なタイミングで観客が息を呑み、そこで人間の審判員がコールして歓声が沸き起こる。そうした野球の面白さや醍醐味が、今は失われてしまっていますよね。
── サッカー界も「三笘(薫)の1ミリ」(2022年W杯カタール大会スペイン戦)ではないですが、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)の時代です。
小林 「機械でジャッジしたほうが絶対に正しいからいい」と考えるファンもいるかもしれません。しかし、メジャーリーグの審判員も嫌気がさして、少し前に何人かがまとめて辞めています。人間だからこそ間違いもあるかもしれませんが、それも含めての野球なのか、それを排除する野球なのか......ということですね。やはり人が裁くからこそ、野球は面白いのだと思います。
小林毅二(こばやし・たけじ)/1946年8月20日生まれ、東京都出身。日体荏原高→日本大→東京都高等学校野球連盟、首都大学野球連盟→セ・リーグ審判員(1972年〜2003年)。通算32年2898試合出場。日本シリーズには12度出場。1994年の巨人と中日の「10・8決戦」で球審を務めるなど、数々の名シーンをジャッジしてきた。プロ野球を退いたのち、現在は東京都高等学校野球連盟の指導員として審判技術と知識の普及発展に努めている
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