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阪神好調の裏に潜む「藤川采配」の不安要素 名コーチ・伊勢孝夫は「勝利に飢えた時こそ本当の姿が見えてくる」 (3ページ目)

  • 今シーズンから阪神の指揮を執る藤川球児監督 photo by Koike Yoshihiro

 開幕から1カ月が経ったが、今のところ順調にスタートを切ったといっていいだろう。これは藤川監督が投手出身であることと無関係ではないとみている。ここまでの戦いを見ていて感じるのは、藤川監督は相手投手が嫌がることに徹しているこということだ。つまり自分が投手としてされて嫌だったことをやっている。これもまた"藤川流"と言える。

 ただ、先述したように藤川監督は投手出身であり、リリーバーとして長年プレーしてきたため、試合中ベンチにいない時間が長かった。それだけに野手の細やかな心理や起用のタイミングなどを肌感覚でつかむのは容易なことではない。

 そこを補うのがコーチ陣の役目だが、今季の阪神にはヘッドコーチがいない。そうした状況で機能しているかというと、やや心許ない印象だ。

 幸い、今のところ打線の状態は悪くない。誰かが不調でも、ほかの選手でカバーできている。まさに理想的な形だ。しかし「打線は水物」と言われるだけに、チーム全体が落ち込む時期が来るだろう。その時にどうやって乗りきるか。そこが指揮官の見せどころであり、ベテラン監督でも頭を悩ませる難題でもある。

 じつは、こうした勝っているからこそ見逃されがちな不安要素こそ、"モヤモヤ"の正体なのだ。

 藤川監督はまだ指揮を執って25試合あまり。ベテラン監督のような手腕を求めるのは酷だし、本人もまだ手探りの状態のはずだ。しかし阪神の監督というのは、たとえ1年目であっても、常に高い期待を背負わされる。そのことをもっとも理解しているのは、ほかならぬ藤川監督自身だろう。

 彼の本当の姿が見えてくるのは、負けが込み、勝利に飢えるような時だ。そこで初めて、選手たちも監督のスタイルを実感するはずだ。本当の勝負はそこからと言えるだろう。

伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。63年に近鉄に投手として入団し、66年に野手に転向した。現役時代は勝負強い打撃で「伊勢大明神」と呼ばれ、近鉄、ヤクルトで活躍。現役引退後はヤクルトで野村克也監督の下、打撃コーチを務め、92、93、95年と3度の優勝に貢献。その後、近鉄や巨人でもリーグを制覇し優勝請負人の異名をとるなど、半世紀にわたりプロ野球に人生を捧げた伝説の名コーチ。現在はプロ野球解説者として活躍する傍ら、大阪観光大学の特別アドバイザーを務めるなど、指導者としても活躍している

著者プロフィール

  • 木村公一

    木村公一 (きむらこういち)

    獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテーターも務める。

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