与田剛は落合博満の言葉に救われた なぜプロ1年目から抑えの座をまっとうできたのか? (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

「初登板の時から、抑えとしてどうこうとは思ってなくて。『オレは子どもの時からこのマウンドを目指してやってきた、だから逃げちゃいけない』って、すごく思っていました。とくに1年目は、逃げ出したくなるような恐怖、不安と闘う日々だったわけです」

【何度も救われた落合博満の言葉】

 実績も経験もない新人の抑えを盛り立てたのは、まさにバックを守る野手たちだった。ピンチを迎え、緊張してガチガチになっている時、遊撃の立浪和義から「大丈夫っすよ、安心してください、守ってますから」と声がかかる。それだけでフッと気持ちが落ち着いた。

「たとえば、ポジショニングで『与田さん、ちょっとこっち寄ってますからね』とか言われたこともあります。だからといって、そこに打たせるためにインコースに投げるようなコントロールは簡単にはできませんよ。でも、野手がそういう気持ちでそこにいると認識されると、マウンドで安心できるんです」

 打者の心理と意識、さらにはバッティング自体も教わったという落合博満からは、野球とは直接関係のない言葉がよく飛んできた。一塁からフーッと寄ってきて、さり気なく、ポロポロっと声がかかる。

「いつまで投げてんだ。もう食事の時間過ぎてるから早く終わらせろ」

「ああ、すいません、早く終わらせます」

 ひとつ間違えば抑え失敗という状況でも、クスッと笑いながら与田は答えていた。マウンド上で右往左往している時、野球の話をされたところで何も考えられない。それだけに、落合の言葉はありがたかった。

 当時の抑えはまだ1イニング限定ではなく、2イニング前後を投げるのが普通。そのなかで結果を出し続けた与田は、6月までに2勝18セーブを挙げ、投手部門のファン投票1位でオールスターに初選出。パ・リーグでは同じく新人の野茂英雄もファン投票1位で初選出され、福岡・平和台球場で迎えたオールスター第2戦。与田と野茂が先発で投げ合うことになった。

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