江川卓はなぜ真っすぐとカーブだけで勝負できたのか 名捕手・大矢明彦の証言「高めのストレートは別格」 (2ページ目)
江夏豊(元阪神ほか)だ。大矢が回想する。
「受けていて速かったのは江夏だね。左ピッチャーだと、どうしても右打者のインローに食い込んでくるストレートのイメージが強いんだけど、江夏は右打者のアウトローの真っすぐがすごかった。あのコースに、あの速さで来たら、とてもじゃないが打てない。とにかくアウトローの真っすぐがすごいなって。コントロールもそうだけど、低いと思って見送ったボールがストライクだから。球の速さでいうと、低めは江夏、高めは江川っていう感じですね」
江夏の生命線は、右打者のアウトコース低め。プレートの一塁側を踏み、アウトコース低めに投げ込む。インコースはひとつ間違えれば長打を打たれる可能性はある。ならばと、安全かつ手が届きにくいアウトローに活路を見出したのだ。
「江夏も江川も、力感のないゆったりしたフォームから糸を引くようなボールを投げてくる。マツ(松岡弘)なんて目一杯のフォームだから、イメージできる速さなんですよね。それに江川は投げる時に、手のひらでバーンとボールを叩くことでスピンを効かせている。だからボールが浮き上がってくるように見えるんです」
イメージ的にはボールを切るのではなく、手のひらで滑らせて押し出すような形。だからスピン量が多くなり、江川独特のスピードとキレが生まれるのだ。
【もうちょっと泥臭かったら...】
「打席で一番速いと感じたのは、中日の小松辰雄です。豪速球というか、ズドーンと重いストレートで、バットに当たったら折れるんじゃなくて、割れちゃうみたいな感じがありました。あと、ロッテの村田兆治も速かったですよ。速かったんだけど、どうしてもフォークのイメージが強いですよね。78年の日米野球でバッテリーを組んだのですが、『ノーサインでやらせてくれ』と言われて、『いいよ』って返した。村田のフォークは揺れながら落ちて、どっちに来るかわからないんです。やっぱり怖かったですね」
ヤクルトでは、サウスポーの安田猛とノーサインでやっていたため、村田とバッテリーを組んだ時もさほど苦にはならなかった。ただ、フォークの揺れ幅だけは四苦八苦したという。
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