誰もが憧れたフォームの持ち主・平松政次は「ああいうふうに投げてみたいな」と江川卓のを真似た (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 私の子どもの頃は、テイクバックはものすごく大きくするというのが当たり前だった。金田さんも『テイクバックは大きく』って言っていました。私なんて、テイクバックを大きくしすぎて、トップの位置に持ってくるまでけっこう遠回りしていましたよ。それを江川の場合は、軽くスパッという感じで投げるんですよね。それがうらやましくてね。それで真似て練習したことあります。誰にも見せずに、内緒でやっていました」

 平松のフォームを見る限り、足、腰の力をフルに使って、ダイナミックに投げるゆえ、一球に要するエネルギー量が必要以上に消費しているように思える。当時はエースといえども、先発、抑えとフル回転していたため、かなり体を酷使していたに違いない。

「『ああいうふうに投げてみたいな』という感情が湧き立って、真似しました。とにかく江川のフォームは、ほんとにすばらしい。

 1980年の開幕戦で江川と投げ合って4対3で勝ちましたけど、あの頃のスピードガンで、お互い最速は149キロ。でも、私は3、4回を過ぎると141、142キロぐらいになるんだけど、江川は最後までスピードが落ちない。この試合はリリーフしてもらって、9回裏にスキップ・ジェームズが江川から同点ホームランを打って、延長で勝ったんですよね。それは覚えています」

 平松は1984年に引退するまで、江川とは9試合先発で投げ合っているが、この1980年の開幕戦のみ覚えているという。やはり投手にとって開幕戦に先発する意味は大きく、そのシーズンのチームの顔として投げるため、鮮明な記憶として残っているのだろう。

 先発で投げ合った9試合のうち5試合が、引退する1984年に集中していた。

「たまたまの巡り合わせだと思うけど、江川にかなりサービスしちゃったかな」

 平松は目尻を下げ、朗らかな笑顔を見せた。

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