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江夏豊は江川卓に「相当図太い」と感服 「巨人というマスコミの餌食になるところで、自らのスタイル貫いたことはすごい」

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

連載 怪物・江川卓伝〜球史に残る大投手・江夏豊との投球論(前編)

「プロ野球史上、最高の投手は誰か?」という問いに、必ず名前が挙がるのが江夏豊だ。オールスターでの9者連続三振、年間401奪三振、延長10回サヨナラホームラン&ノーヒット・ノーラン、そして日本シリーズでの"江夏の21球"と劇画のようなシーンの数々を演出してきた不世出のサウスポー。

 その江夏と江川卓を比較すると、ともに本格派にして制球力がよく、ストレートとカーブだけで三振の山を築くという共通点が浮かび上がる。

プロ3年目の1981年に20勝を挙げた江川卓 photo by Sankei Visualプロ3年目の1981年に20勝を挙げた江川卓 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【江川卓は異質な存在だった】

 一見、ふたりは水と油のように思えるが、互いにリスペクトしている。江川が8歳上の江夏をリスペクトするのはわかるが、江夏も江川のことを認めているというよりは、ある意味、同志と思っている部分がある。

「江川とはあるCMの撮影でハワイに行った際、撮影の合間に相撲をとったことがあったなぁ。足を挫いたけど」

 江夏に江川のことを聞くと、CM撮影の話がすぐに出てきた。

 1988年に江川が現役引退してしばらくすると企画が持ち上がり、ハワイでの撮影が行なわれた。時代はバブルの真っ盛りで、都内のスタジオでできることをわざわざ海外で撮影することがステータスであり、それがふつうにできた時代。それよりも江夏が35年前のことを覚えていることに驚いた。

 そんな江夏に江川のピッチングの印象を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「江川のピッチングを見た時、天性で投げていると感じた。あの時代には珍しいピッチャーだった。そういう意味じゃ、江川というのは異質な存在だったよね。ましてや、所属している巨人が比較的外部からの声がいろいろ入ってくるチームじゃない? これがたとえば、昔の阪神とかそれほど周りからガタガタ言われないチームだったらわかるけど、巨人という、いい意味でも悪い意味でもマスコミの餌食になるところで、自らのスタイル貫いたっていうのはやっぱり敬服する。相当図太い。でも実際グラウンドを離れると、そういう考えがものの見事に吹っ飛んでしまう、ふつうの好青年なんだよね」

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著者プロフィール

  • 松永多佳倫

    松永多佳倫 (まつなが・たかりん)

    1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て 2009 年 8 月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数。

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