江夏豊は江川卓に「相当図太い」と感服 「巨人というマスコミの餌食になるところで、自らのスタイル貫いたことはすごい」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 もっと辛辣なことを言うのかと思ったら、江川の本質を見抜き、認めている発言を社交辞令抜きでする。経歴等は大きく違えど、自分のスタイルを確立し、信念を持って投げる姿は酷似していると見ていたのだ。

【アウトローとインハイ】

 ともに三振を取るのにも、それぞれのスタイルがあった。江夏が言う。

「オレ、右バッターのアウトコースが自分の武器だったけど、江川はどちらかといえば高めの胸もとに投げ込む。それであれだけ抑えるんだから、相当真っすぐに自信を持っていたんだろうね。バッターが一番嫌がるのが胸元だけど、ひとつ間違えば長打になる可能性がある。そこを堂々と攻めていけるんだからすごいよね。そういうピッチャーがいないというよりも、通用しない時代だから」

 江夏はアウトロー、江川はインハイが勝負球だった。江夏もルーキー時代は右打者のインハイを勝負球としていた。しかし、少しでも手元が狂えばホームランを打たれてしまう。見た目と違って、繊細で神経質な江夏は完璧に抑えたいと思案に暮れた。

「それまでサウスポーと言えば、右バッターの胸もと、膝もとが生命線だった。プロ1年目はそれで攻めていたんだけど、悲しいかな、コントロールが悪くスタミナも不十分だった。ちょっと甘くなると遠くに飛ばされる。それが辛かった。ひと振りで多いときには4点入ることになる。1年目は234イニング投げて、打たれたホームランは27本かな。ちょっと打たれすぎだよね。

 それでなんとか自分を変えてみたいっていうことで、2年目に入ってこられたピッチングコーチの林義一さんに相談するわけよ。ならば、インコース攻めるよりもアウトコースを攻めれば、と。当時はアウトロー主体の配球をすると、周りから散々非難を浴びた。左ピッチャーは胸元に投げるのが当たり前で、外に投げるなんて考えられない、と。そういう声をよく聞いたよ。でも自分は、そのほうが無難だと思った。打たれたくないんだから、勝ちたいんだから。それでアウトロー主体のピッチャーになった」

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