関根潤三はミスした秦真司に「命までとられるわけじゃないんだ」と二軍に落とすことなく起用しつづけた (3ページ目)

  • 長谷川晶一●文 text by Hasegawa Shoichi

 関根の前任者は土橋正幸だった。江戸っ子で気風のよさで知られる土橋は、感情表現が豊かであり、喜怒哀楽を包み隠すことがなかった。端的に言えば、極度の短気であった。

「土橋さんの頃は、試合でミスすると、ベンチで荒れ狂っている姿がすごく気になりました(苦笑)。でも、関根さんはどんなときも、いつも穏やかに見守っていました。すると選手は落ち着いてプレーすることができるようになります。それも関根さんの大きな特徴でした」

【あいつアイツは法政の後輩だから】

 しかし、続けて秦はこんな言葉を口にした。

「でも、関根さんは決して穏やかな方ではありませんでした。僕から言わせれば、関根さんは"鬼"です。顔は笑っているんだけど、心のなかではものすごく厳しく、決して妥協しない芯の強さがありました。キャンプでの練習のきつさはハンパないです。練習後は這って風呂に行きましたし、泣きながら練習している選手もいましたから」

 本連載において、前回登場した川崎憲次郎は「顔は笑っているのにじつは怒っているから」という理由で、関根のことを「"笑いながら怒る人》"なので、陰では竹中直人と呼んでいた」と語っていた。秦の述懐を聞こう。

「口調は本当に穏やかで、顔もニコニコ笑っているんですけど、あの人、いつも僕の足を踏むんですよ(笑)。僕の足を踏みながら、ニコニコして『ちゃんと地に足つけてやれよ』って言うんです。表情と心のなかが違うんです」

 試合中、ピンチを迎えた場面で自らマウンドに行き、「しっかり投げろよ」と笑顔で言いながら、じつは足を踏まれていた──。このやり取りは前回の川崎も語っていたし、「ギャオス内藤」こと内藤尚行もしばしば口にするエピソードであるが、捕手である秦もまた、その「被害者」だったのだ。

「えっ、そうですか。ピッチャーが踏まれていたという記憶はなかったなぁ(笑)。関根さんにはよく、『おまえは後輩だからな』って言われていたので、ほぼほぼ僕が踏まれていたんだとは思いますけどね」

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