関根潤三はミスした秦真司に「命までとられるわけじゃないんだ」と二軍に落とすことなく起用しつづけた (2ページ目)

  • 長谷川晶一●文 text by Hasegawa Shoichi

 関根が監督に就任した1年目、秦の出場試合数はプロ入り以来最低となる33試合に終わった。「このままでは終われない」と捲土重来を期した翌88年、ここから関根と秦との関係が本格化することになる。

【怖さや不安を取り除いてくれる監督】

 背水の陣を迎え、監督との関わりが増えるにつれて、秦は「関根流指導術」の一端を垣間見ることになる。すぐに「関根の口癖」に気がついた。

「関根さんからよく言われたのが、『なにも死ぬわけじゃないんだから』とか、『命までとられるわけじゃないんだから』という言葉でした。アマチュア時代は"負けたら終わり"の戦いがずっと続くけど、プロは決してそうじゃない。たとえ負けたとしても、翌日の試合に備えて切り替えなくちゃいけない。そんな時に、たとえ失敗したとしても、『なにも死ぬわけじゃないんだ』と考えるのは、すごく重要なことだと思いますね」

 心から「死ぬわけじゃないんだ」「命までとられるわけじゃないんだ」と、秦が思えるようになったきっかけは、関根ならではの気遣いにあったという。

「関根さんは、プレッシャーから生まれてくる怖さや不安を取り除いてくれる監督だったと思います。というのも、その怖さや不安というのは、『失敗したら、もう使ってもらえなくなる』というのが大きな要因です。でも、関根さんはたとえ失敗してもずっと使ってくれる。二軍に落とされることなく、次の試合でも使ってくれるんです......」

 たとえ失敗しても、すぐに見切られることがない。それは、池山隆寛、広沢克己(現・廣澤克実)についても同様であり、選手にとってはじつに心強いものだった。秦は続ける。

「そうして使い続けてもらっているうちに、小さな成功体験が積み重なっていく。その結果、それが少しずつ自信に変わっていく。そうすると、チームが明るくなってくるんです。たしかにチームは弱いんだけれど、それでも少しずつ明るくなってきた。関根さんが監督になってからはそんな実感がありました」

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