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巨人再建へ、阿部慎之助監督が「エース」「4番」「正捕手」に求めること 戸郷翔征には「負けたときにどう振る舞うか」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 市川光治(光スタジオ)●編集協力

── そうなるために必要なことは?

阿部 自分の意思をしっかり持っていなければなりませんし、ピッチャーにどう声をかけたらいいのかを勉強してほしい。ピッチャーにかける言葉って大事ですからね。僕も現役時代はマウンドで「打たれちまえ」と言ったこともあります。

── そんなことがあったんですか(笑)。

阿部 そうですね。「ちょこちょこやられても面倒だから、いっそのこと打たれちまえ」と言ったこともありますよ。でも、そうすると開き直っていい球が来るタイプのピッチャーもいますからね(笑)。

── ということは、監督としてはキャッチャーにリードの正解を求めるような発想はないということですか。

阿部 ないですよ。だって、そこが野球の面白いところですからね。バッターだってど真ん中を全員が打つかといったら打てないだろうし、ミスショットもあります。僕が若い頃は「理想のキャッチャー像はこうだ」「配球はこうあるべきだ」と、場合によってはキャッチャーをやったことのない人からも言われましたよ。

── 現役時代、監督は結果論で配球を責められて「じゃあ、どうしたらよかったのか」とよく思い悩んでいました。

阿部 もちろん配球で苦労してきたからこそ、バッターボックスに立ったときに読みが冴えたということはありました。ただ近い将来、たとえば日本にもピッチクロックが導入されれば、ピッチャーの自己責任の割合は増えていきます。ピッチャーが自分で組み立てを考えなければならなくなって、キャッチャーの配球は関係なくなっていくでしょう。そうなれば、打たれて責められるのはキャッチャーという時代ではなくなっていくと思います。今までは、打たれた責任を負うストレスがあるからキャッチャーはバッティングに集中できない、という側面もあったはずで、ピッチクロックがキャッチャーの打撃成績を上げてくれるという、思わぬ作用だってあるかもしれません。

── では最後に、今シーズン、ジャイアンツは「新風」というスローガンを掲げました。昨今の野球は日米ともにデータが重視されて、本能や勘といった選手の判断に委ねるプレーは排除される傾向にあります。ジャイアンツが掲げた「新風」は、どんな野球を「新しい風」と捉えているのでしょう。

阿部 うん、僕はデータももちろん大事ですが、本能や直感も同じくらい大事にしたいと考えています。データは進化する一方で、戦略を練る際にはチームにとってものすごく有益なものになりますが、じゃあ、データどおりにやれば勝てるのかといったら、そうじゃない。試合が始まれば戦略ではなく戦術が大事になりますし、戦術は刻々と変わっていきます。臨機応変に戦っていく中で最後のひとつを超えるのは人間の本能や直感の力ですし、そこはチームのデータと選手の直感をうまく融合しながら、新しい風を吹かせていきたいと思っています。今は「やってやろうじゃないの」という気持ちでいますよ(笑)。


阿部慎之助(あべ・しんのすけ)/1979年3月20日、千葉県生まれ。安田学園から中央大に進み、2000年ドラフト1位(逆指名)で巨人に入団。1年目から開幕スタメンを果たすと、その後も打てる捕手としてチームの中心選手として活躍。8度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。07年から8年間は主将を務め、12年には首位打者、打点王、最高出塁率、MVPを獲得した。19年限りで現役を退くと、二軍監督、ヘッドコーチなどを歴任。23年オフ、原辰徳前監督のあとを受け巨人軍監督に就任した。

著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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