T−岡田の複雑な胸中「やっぱりおもんないっすよ」 昨年0本塁打の元キングが今季にかける思い (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 形、感覚は似ていても、たどり着くまでのプロセスが違う。重心を下げるとなると、下半身への負担が気になるのだが......。

「言ってられないです。代打になると、ひと振りで相手のボールにアジャストしていかないといけない。たとえば、ツーアウト一、三塁とか、一、二塁とか、僕が出ていく場面はビハインドで打点が求められることが多い。そこでポテンヒットでもいいから、とにかく走者を還すためにどんな球にも対応できる形をつくっておかないといけない。そのための形でもあります」

【まだホームランはあきらめていない】

 思えば2010年もそうだった。岡田彰布監督のもと、T−岡田と改名して挑んだシーズン。初の開幕スタメンを勝ちとったが、スタートから打撃が安定せず、5月から重心を沈ませ、目線の上下動を少なくしたノーステップ打法へ。すると、球を捉える精度が上がり、結果的に33本のホームランにもつながった。

「だからホームランを捨てたわけじゃないんです」

 もちろん、ホームランは岡田の代名詞。履正社高時代にそのパワーに魅了されて以降、これまで何度も度肝を抜かれてきた。だからこそ、厳しい現況にあっても一発に対する期待は残っている。

 こちらが「ここでもうひと化けして、30発でも打ったらドラマやけどなぁ」と呟くと、ニヤリとした岡田から否定的な反応はなかったので、もう一度聞いてみた。「何かひとつ掴んだら......まだそんな可能性もあると思っている。自分自身にまだ"化ける"期待はある?」と。

 すると岡田は「そこをあきらめてはないです」と、声は少し控えめながら、たしかにそう言った。

 久しぶりの岡田の取材でこちらのテンションも上がり、さらに「14年ぶりのホームラン王でも獲ったら、とんでもない騒ぎになるけど......」と言ってみた。

 これには苦笑いを浮かべつつ「そんな人、なかなか聞かないですよね。山崎武司さんくらいじゃないですか」と、元ホームランキングの名を口にした。

 山崎は中日時代の1996年と楽天時代の2011年に、11年間のブランクを経て本塁打王に輝いた。年齢では28歳と39歳の時だ。もし岡田が2度目の本塁打キングになれば、22歳と36歳、じつに14年ぶりとなる。

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