尾花高夫は斉藤和巳のピッチングを見て「コイツをエースにできなかったら指導者失格」と惚れ込んだ

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi

尾花高夫インタビュー(中編)

前編:「名将の懐刀」尾花高夫が語るそれぞれの流儀はこちら>>

 尾花高夫氏は投手コーチとして、チームの勝利はもちろん、これまで30人を超す投手のタイトル奪取に貢献してきた。投手を育てる際、重要視していたことは何なのか。また、これまで育ててきたなかで、印象深い投手5人を挙げてもらった。

斉藤和巳(写真右)のピッチングを見つめるダイエーコーチ時代の尾花高夫氏 photo by Sankei Visual斉藤和巳(写真右)のピッチングを見つめるダイエーコーチ時代の尾花高夫氏 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【一流投手になるための3条件】

── 投手タイトルを獲得するような投手を育て上げるにあたり、必要な「条件」は何になりますか。

尾花 条件としては、「武器(球種)を持つこと」「クイックで投げられること」「守備が平均点以上であること」の3つです。武器とは、ストレートを含めた絶対的な球種のことです。それがひとつよりふたつ、3つと増えていくにつれ、勝つ確率は高まっていきます。わかりやすい例を挙げれば、山本由伸(オリックス→ドジャース)はすべての球種がカウント球にもウイニングショットにも使えます。そして大事なことは、武器をどう使うか。相手打者の攻略法について、ワンポイントアドバイスを施すのです。

── 相手打者の分析は尾花さんがするのですか?

尾花 新しいチームに移籍した時は、前年度のチャートを見て分析します。分析は何時間かかっても、選手の頭に入りやすいようにミーティングで話すのは1分です(笑)。たとえば近鉄や中日などで活躍した中村紀洋は、年間で外角の球を打ったのはほとんどありませんでした。だから「初球はストレートでもいいから、安心して外角に投げなさい」とアドバイスします。ほかにも、野村克也監督がよく言っていた打球方向なら、「2ストライク前と、2ストライク後で変わるかどうか」「2打席目以降で変わるかどうか」というところも注視していました。よく調べれば、絶対に安全な"場所(ゾーン)"があるものです。

── 尾花さんが育成した投手のなかで、印象に残っている5人を挙げていただきたいのですが、まずはどの投手ですか。

尾花 斉藤和巳(ダイエー、ソフトバンク)ですね。95年のドラフト1位投手ですが、右肩を手術して、プロ入り後はほぼファームでした。99年にリーグ優勝したあと一軍に昇格させ、1イニングを投げて2失点ながら3奪三振。その時に「コイツをエースにできなかったら、自分は指導者失格」と思うほど能力の高さを感じました。

 以後、斉藤に「エースの教育」を施しました。本人は嫌がっていたみたいですが(笑)。「エースとは負けないことだ」「エースはチームの鑑(かがみ)でなければならない」など、考え方や立ち居振る舞いを教えました。のちに斉藤は、圧倒的な成績を残し「負けない男」と呼ばれるようになりました。

1 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る