江川卓が20奪三振 完敗の敵将はなんとか1安打で「完全試合にならなくてホッとした」 (2ページ目)
試合後、江川の表情から完全に笑顔が消え、報道陣の矢継ぎ早の質問に対しても「別に記録もつくれませんでしたし、これといって話すこともありませんので......」と、相変わらずぶっきらぼうに答える。想像以上に押し寄せるファンとマスコミの対応に、困惑気味の江川であった。
【四国の雄から20奪三振】
4月3日、準々決勝は四国の雄・今治西高(愛媛)との対戦となった。四国大会を圧倒的な勝ち方で甲子園出場を決めた、優勝候補の一角である。選手たちは「絶対に江川を打ってやる!」と、対戦を楽しみにしていた。
1回裏の今治西の攻撃、1番の曽我部世司が「江川と言っても、同じ高校生だろ。オレが打ってきてやるから見てろよ!」と威勢よく打席に入るが3球三振。それでもベンチに戻ってくると「打てるぞ!」と檄を飛ばすが、試合終盤には「打てるか」と言い出す始末。結局、曽我部は3打数3三振。
立ち上がりは寝不足で体が重いと感じていた江川はスピードが乗らず、2回にこの回先頭の渡部一治に甘く入ったストレートを芯でとらえられ、レフトにいい角度で打球が上がった。「行ったかぁー」と今治西ナインは思ったが、フェンス手前で失速してレフトフライ。だが渡部は抜けたと思い、二塁ベース上で悠々と立っている。審判の「アウト」のコールに「えっ??」と驚きの表情を見せて、納得いかない様子でベンチへと戻っていった。これが江川から打った打球のなかで、一番の会心の当たりだった。
江川は3回の攻撃で、右方向へ強烈なライナーを放ち、今治西のライト・渡部隆史が目測を誤り、頭上を越す二塁打となった。この一打で気をよくした江川は、ピッチングにも熱が入りテンポよく打者を抑えていく。
7回一死までパーフェクト。球場内もざわめき始め大記録への期待が高まるものの、江川が投じた99球目のど真ん中のストレートを3番・田鍋良忠が緩いハーフライナーでセンター前に運び、惜しくも大記録達成はならなかった。
今治西のエース・矢野隆司は、同じピッチャーとして江川の球の回転に驚いた。
「1打席目の初球、ど真ん中にドーンときました。速かったです。キャッチャーを見たら、ホップするボールをこぼさないようにミットをしっかり押さえているんです。『速いなぁ』ってついこぼすと、キャッチャーは『これで5から6分程度かな』と。そして次に投げたボールがワンバンドになると思ったら、途中からグググッとホップして『もう失礼しました』って感じですよ」
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