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「これはいよいよ逃げられん」WBC準決勝で牧原大成が明かす幻となった代打でバント「失敗したらパスポートを捨てなきゃ。日本には帰れん」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 編集協力●市川光治(光スタジオ)

【失敗したらパスポートを捨てなきゃならん】

 1次ラウンド、中国戦と韓国戦ではラーズ・ヌートバーの代走から守備固め、チェコ戦ではヌートバーに変わってセンターに入ったあと、ヒットを放つ。オーストラリア戦では近藤健介に変わってライトに入り、準々決勝のイタリア戦でも吉田正尚の代わりにレフトを守った。同時に、ケガで離脱した源田壮亮のバックアップとして試合前にショートでノックを受けるなど、牧原はユーティリティーの仕事を完璧にこなしていく。

 そんな牧原に、"大役"が待ち受けていた。

 マイアミで行なわれた準決勝は4−5とメキシコに1点のリードを許して、日本は9回裏の攻撃を迎えていた。ここで先頭の大谷翔平がツーベースヒットを放ち、吉田正尚が打席に入る。ボールが先行したところで、もしフォアボールとなれば無死一、二塁となる場面だ。ベンチとしては送りバントも考えるケースだが、続くバッターは村上宗隆。バントをするなら村上よりも適任者がいると、準備をしておくよう城石憲之コーチに耳打ちされたのが牧原だった。牧原が当時をこう振り返った。

「代打でバントって経験がないんですよ。しかも自分自身、バントは得意じゃない。WBCという負けたら次がない試合では、あのバントがすごくうまい源田(壮亮)でさえ、2球も失敗したじゃないですか。最後はスリーバントを成功させるんですけど、あの源田が一発で決められないのに......城石さんに『翔平が出たら(代打でバントが)あるからな』と言われた瞬間、めちゃくちゃ緊張しちゃいました。『えっ、僕ですか? マジッすか、バント下手ですよ』って(笑)。でも大丈夫だからとか言われて準備していたら、翔平がツーベースを打った。ノーアウト二塁なら、次の正尚が引っ張って翔平を三塁へ進めてくれればバントはないと思っていたら、正尚がボール球を選んで、スリーボールになった。ベンチはもう大盛り上がりです。

 でも、僕だけは『うわっ、これはいよいよ逃げられん』と覚悟を決めてベンチでヘルメットをかぶったら、フォアボールです。もともとネガティブな僕は『あー終わった、もうなるようになれ』という心境でした(笑)。失敗したらパスポートを捨てなきゃならん、日本には帰れん、プレッシャー、デカっと思っていました。そもそもバントって、僕のなかでは一番難しいという感覚なんです。だって求められるのは100パーセントじゃないですか。打つほうは3割打てれば一流でしょ。7回は失敗できるんです。でもバントは10割ですからね。僕にとってはヒットを打つことよりも難しいんです」

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