慶應幼稚舎初のプロ野球選手 廣瀬隆太の魅力はクソボールを本塁打にする「遠心力打法」
あのホームランは、一生忘れないだろう。昨年のちょうどいま頃だ。愛媛・松山の坊ちゃんスタジアムでの大学日本代表候補強化合宿。つまり、日の丸を背負って戦う大学ジャパンメンバーのオーディションだ。
選手たちの"実戦力"を試すために行なわれた紅白戦で、両翼100m、センター122mの広大な坊っちゃんスタジアムの左中間の一番深いところ、しかも最上段にライナー性の打球で叩き込んだ選手がいた。飛距離はおそらく140mぐらいだろうか。さらに打った球が「155キロ」の剛速球だったから、二度驚いた。
「そうですね......まあ、真っすぐ一本狙いだったんで、出会い頭と言えば出会い頭かもしれませんね」
そう涼しげな表情で語ったのが、驚愕のホームランを放った慶応義塾大の廣瀬隆太だ。
クール......いやいや、クールなヤツが155キロの球を140mも飛ばせるわけがない。表現するとすれば、クールよりも"フラット"だろう。
ソフトバンクからドラフト3位で指名された廣瀬隆太 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【次々に飛び出す驚愕のアーチ】
この秋、廣瀬は最後のリーグ戦の早慶戦でも、レフトスタンドに突き刺さるホームランを放った。そしてそのあとの明治神宮大会でも、いかにも彼らしい奔放で豪快なバッティングを披露して、日本一の原動力となり、有終の美を飾ってみせた。
廣瀬は、ただの長距離砲ではない。明治神宮大会の準決勝、日本体育大との一戦。その第2打席で、廣瀬はカットボール気味のボールにタイミングを外され、腰砕けのような格好で三塁線にファウルを打った。見た目カッコ悪い打ち方になった時の廣瀬は、次のスイングが怖い。心身の緊張がほぐれ、しっかり修正してくるからだ。
そして次のスイングで、アウトにはなったが痛烈な打球を三遊間に放った。
「振れてるな、今日の廣瀬......」
案の定というか、次の打席だ。小さく変化した外角高めに浮いたボールをレフトスタンドに放り込んだ。打った瞬間、ホームランとわかる豪快な一発。レフトの選手は、振り向きもしなかった。
外角高めを右中間に......というのならわかる。それを引っ張って、スタンドに放り込めるのが廣瀬の怖さだ。バッテリーにとって想定外のバッティングをされるほど、怖いものはない。
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著者プロフィール
安倍昌彦 (あべ・まさひこ)
1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院野球部から、早稲田大学でも野球部に所属。雑誌『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」としてドラフト候補投手のボールを受ける活動を始める。著書に『スカウト』(日刊スポーツ出版社)『流しのブルペンキャッチャーの旅』(白夜書房)『若者が育つということ 監督と大学野球』(日刊スポーツ出版社)など。