石毛宏典が考える西武再建「自主性」は大切だが時代が変わっても変わらない「野球の基本がある」 (4ページ目)
【技術指導以外に必要なもの】
――それが2018、2019年のリーグ優勝につながったのかもしれませんね。技術指導以外に必要なものはありますか?
石毛 球団でも一般企業でも、理念や方針があります。監督がそれを示して導いていく。やはり熱量、迫力も必要です。それと、「監督ってそんなにやることあるの?」と言われることもあるんですが、本当にたくさんあるんです。
あるピッチャー出身の監督が「野手のことはわからないから、コーチに任せる」と言ったことがあります。最初は知らなくてもいいと思うんですが、監督である以上は「コーチはこうやって指導してるんだな」と知ること、選手やコーチと「自分はこう思うんだけどどう思う?」といったコミュニケーションをとりながら、知らない部分を埋めていく努力は必要だと思います。
それらを知った上で任せるのか、まったく知ろうとせずに人に任せっきりになることは全然違います。それをやらなきゃいけないのが、監督の仕事だと思います。
――熱量を選手たちに伝えていくためにはどうするべきか?
石毛 今年のWBCで日本を優勝に導いた栗山英樹監督、昨年のサッカーW杯で日本をベスト16に導いた森保一監督は、決して強面の指導者ではなくコミュニケーションのとり方がソフトな印象です。それでも熱量は十分すぎるほど選手たちに伝わっていたように感じます。
それと、栗山監督は選手のヒーローインタビューをベンチで聞く監督でしたが、今までそんな監督はいなかった。本人に「なんでヒーローインタビューをベンチで聞いているのか?」と聞いたことがあるんですが、彼は「自分がやりたい野球があって、それを選手たちに聞いてもらうために、『選手の意見もしっかり聞いているよ』と伝えたかったんです。一方通行の監督ではなく、双方向のコミュニケーションを取るためのひとつの手段なんです」と言っていました。
授業参観で、保護者が後ろから子どものスピーチを聞いているような感じだと思いますよ。子どもは親が聞いてくれていると安心するじゃないですか。ちゃんと自分のこと見てくれて、話も聞いてくれて、時折アドバイスもくれる。だったら「この人のために頑張ろう」という気持ちが自然と芽生えるんだと思います。
――監督から選手へのアプローチも変わってきた?
石毛 そう思います。私たちが若い頃は練習で「これをやれ!」と強制されることが多かった、という話をしてきましたが、今は「何がうまくなりたい? じゃあ、こうやろうか?」みたいな感じ。昔の根底にあったのは「有無を言わさない厳しさ」だったのが、今は人が人のことを思う「愛情」になっていると思うんです。
もちろん昔の指導者にも、愛情は多かれ少なかれあったとは思うのですが、それよりも厳しさが全面に出ていましたから。いずれにせよ、強いチームを再建していくためには選手の頑張りはもちろん、指導者の意識や方針、熱量といったものが必須でしょうね。
【プロフィール】
石毛宏典(いしげ・ひろみち)
1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランド リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。
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著者プロフィール
浜田哲男 (はまだ・てつお)
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界でのマーケティングプランナー・ライター業を経て独立。『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ系メディアで企画・編集・執筆に携わる。『Sportiva(スポルティーバ)』で「野球人生を変えた名将の言動」を連載中。『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)など幅広いジャンルでの編集協力も多数。
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