「ハンカチ王子を卒業しろ」 恩師からの檄に斎藤佑樹はプロに向けて150キロを目標に掲げた (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 スピードをもっともっと上げたいと考えていたんです。焦りもあったのかもしれません......1年ですぐに結果が出て、2年でも投げれば勝つという感じになって、これはもっと天井を高く設定しておかなければその先へ行けないんじゃないかという不安を抱いていました。

 どんなに高いレベルをイメージしても、環境にあわせてラクをしてしまうところが人間にはあると思うんです。いわゆる天井理論ですよね。籠に入れられてしまったら籠の天井までしか飛べなくなる。もっと天井の高いところに行けば、それなりに高く飛べる。大学時代の僕はプロのレベルをイメージできていないどころか、むしろ膨らませすぎていました。

 その時期、高校からプロに進んだマー君(田中将大)と比較されることが多くて、僕は「バッターに打たれないボールを投げていればそれでいい」というようなことを言っていたと思います。でもプロと大学では相手バッターのレベルも違いますし、そこは未知数ですよね。それでもマー君がプロで2ケタ勝ってるとなれば、斎藤はプロで活躍できるのか、できないのかということをあちこちで言われてしまう。そんな不安を解消する一番わかりやすい目標が、一度も投げたことのなかった150キロという数字だったんです。

 今思えば、2年秋のピッチングスタイルはプロで十分、勝負できるものだったような気がします。でもそうは考えられなかった。3年生になったら150キロを投げたい......いや、150キロを投げなければ先はないと思い込んでいました。

【身体も考え方も大人にならなきゃ】

 大学2年というのは20歳になる学年です。身体も子どもから大人に変わっていく時期だったんでしょう。たぶん大人の身体になって、柔らかさを失って硬くなっていたところもあったと思います。

 当時の僕はパーンと開脚できて、そのまま上体を前にベタッと倒せれば、それで身体が柔らかいと安心してしまって、そういう柔軟運動ばかりを繰り返していました。でもそうじゃなかった......もっと胸郭の周りとか胸椎の周り、肩甲骨の周りを柔らかくする努力をしていたらよかったと今となっては思います。

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