「選手から嫌われたら自分の器量がなかったということ」ソフトバンク斉藤和巳コーチが語る指導論 (3ページ目)
──指導者人生を歩むにあたり、理想にしているコーチ像はありますか?
「現役時代にいろんなコーチの方にたくさん教わりましたが、誰かを真似るという考えはあまりないですかね。自分の思ったこと、感じたことを言うほうが合っていると思う。ただ、解説者時代などにもよく聞いていたのは『自分が現役の時に、されて嫌だったことはしないように』。それはわかる気がします」
──そういったなかでも、やはり常勝ホークスの礎を築いたメンバーは、誰もが「王イズム」を口にします。斉藤コーチのなかにも息づいているのでは?
「もちろん、自分の野球観の根底には王(貞治)会長の考え方があります。プロは勝つための集団であり、そしてファンのために自分たちは何を考え、何をしなければならないのか。そのなかで僕はプロの世界で育ててもらいました。『王イズム』は無意識に自分のなかに入っているもの。そこだけは『時代』に関係なく、絶対ブレたくない。今の選手たちに何を思われようが、絶対間違ってない自負があります」
──よき伝統として継承していく役目もありますね。
「もし、それで自分が嫌われたり選手から距離をとられたりしたら、多分自分の器量がなかったということ。こういう世界に自分が合わないという答えでもある。ただ、そこはとにかく絶対ブレたくない。時代に関係なく、今も大事なところなので」
──また今季の話に戻しますが、「千賀滉大の穴」は気になるところです。
「そう? 初めから心配してない。埋められると思っています。周りのみんなはそんなふうに言うけど、俺は初めからそんな頭は全くないですね。十分埋められるだけのピッチャーがいます」
──たしかに先発候補は多数。開幕ローテ6人を選ぶのも大変です。
「でも長いシーズンを6人だけじゃやっていけません。8~9人くらいの先発を抱えておかないと。そういう時代じゃないですしね。お休みしながら、です。休みっていうのが、プロ野球の働き方改革なんじゃないかな。それがいいのか悪いのかわからへんけど、ある程度そこは時代に倣わないといけない風潮もありますしね」
──時代といえば継投策も大事になります。
「今まで解説者をしていて、画面越しとかネット裏最上段の俯瞰で見るとわかりやすかったものが、ベンチに入って横から野球を見ると全然違います。オープン戦を通して、展開などを見てあれこれ考えるけど、思惑どおりにいかないこともある。いきなり投げさせるわけにもいかない。準備は必要。だから、そのあたりはブルペンを担当する(齋藤)学さんと連携をしっかりやっていかないと。とにかく初めて尽くしでわからんことだらけです」
──そんな不安にも立ち向かっていくのが斉藤コーチらしさ。
「そうよ。コーチをやると決めた以上、逃げずにね。今までみたいに自分のことだけを考えていればいい立場じゃない。これだけの選手を抱えるわけだし、ホークスの試合を何万人というお客さんが見に来てくれます。テレビの向こうでも応援してくれる。何があっても、監督にドヤされても、もし負けが続いてファンからドヤされても、常にファイティングポーズを取り続ける。それは当たり前のことです」
──それが今季の誓いになりますね。
「俺がそうじゃないと選手に何も言えへん。選手にも『戦う姿勢』という話をして、そうやって接してるから。自分が下を向いたり、その場から目を背けたりすれば、選手はそれを感じる。選手は結構コーチを見ているからね。だから常に堂々とせなアカンなって思っていますよ」
著者プロフィール
田尻耕太郎 (たじり・こうたろう)
1978年生まれ、熊本市出身。 法政大学で「スポーツ法政新聞」に所属。 卒業後に『月刊ホークス』の編集記者となり、2004年8月に独立。 九州・福岡を拠点に、ホークスを中心に取材活動を続け、雑誌媒体などに執筆している。
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