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「磨けば光るダイヤモンドをどぶに捨てるのか」選手兼監督・江藤慎一はフロントに抗議をしてまでプロ3年目の真弓明信を使い続けた (2ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by 共同

 1975年、監督に請われた江藤が一間しかないアパート住まいであるのも親会社を持たない球団の悲哀であった。選手兼指揮官という重責を担う者に対する待遇としては、みすぼらしいものであった。

 夏休みに福岡に遊びに行った江藤の長女の孝子は、雑居ビルに入っていたワンルームで貸し布団を敷いて雑魚寝をしたことを今でも覚えている。それでも江藤は「わしは野球さえできりゃあ、それでいいんじゃ」と意に介さなかった。

 初めての監督就任に際して、江藤はこんな言葉を自著に残している。

「人は、太平洋クラブライオンズを、山賊集団と呼び、ごろんぼ球団と呼ぶ。何と呼ばれようと勝手だが、少年フアンから、老人まで、太平洋クラブライオンズは夢を運んでくれるチームと思われる様にするのが私の務めだ、と思っている」「アトラクションという言葉があるが、アトラクティブ、つまり魅了するものがあるから人が集まる。プロ野球が、人を魅了しなくなってしまえば、おしまいだ」(『闘将火と燃えて』<鷹書房>)

 管理とリアリズムに徹した勝利至上主義を「小巨人」戦法と批判し、観客が魅了されてスタジアムに足を運びたくなるような野球をやると宣言している。またこの年から、パ・リーグに導入された指名打者制については、何でもソツなくこなす選手よりも一芸に秀でた選手が生き残り、観客にも夢を与えることができる、と諸手を挙げて賛意を表明していた。

「これ程、社会が管理化し、会社では、あらゆる制約のもとに呻吟するサラリーマンの方や、受験地獄に苦しむ学生、その他全てのお客様が、その制約から解放されて球場に足を運ばれる。そこで再び、縮図のようながんじがらめの野球を見て、何が面白いものか、と私は思う」(『闘将火と燃えて』<鷹書房>)

 1975年、柳川商業を経て、電電九州から入団した真弓明信はプロ3年目を迎えていた。1年目は2試合、2年目は23試合出場と、二軍との往還を繰り返し、社会人出の戦力としては、伸び悩んでいる印象を周囲に与えていた。潤沢な予算がない球団のフロントはそろそろ整理リストにその名前を入れ始めていた。しかし、これに新監督の江藤がストップをかけた。「磨けば光るダイヤモンドをどぶに捨てるのか」と質したのである。

 江藤はいち早く、真弓のポテンシャルを見抜いていた。一軍の練習の手伝いにきていた真弓が外野の守備についてボールを追うと、出色の動きを見せていた。「あれは誰だ?」とコーチに名前を確認して脳裏に叩き込むと、フロントに抗議をしてまで使い続けた。一方、真弓はこの「ダイヤモンド」発言を知らなかった。

「それは聞いたことがなかったのですが、何か江藤監督に本当に目をかけてもらっているなという印象は持っていました。僕は一軍の最年少選手でしたから、移動する時などは、いつも監督のヘルメットを預かって持ち歩いてました。とにかく、大きなヘルメットだったという記憶があります(笑)」

 真弓はこの年、代走や守備要員をきっかけに起用され続け、78試合出場で打率も.311を記録する。出塁率が.364で長打率が.393、後に1985年の阪神優勝時に長打の打てるトップバッターとして活躍する萌芽を見せていた。

 指揮官の江藤は攻撃に特化したアトラクション野球を目指し、トレードで投手を出して強打者を取るという大胆な血の入れ替えを敢行した。編成は54人の支配下選手のなか、17人が新入団選手となった。日本ハムから白仁天、近鉄から土井正博を獲得すると、このふたりはそれぞれ移籍1年目で首位打者、ホームラン王になっている。さらに江藤は広島を自由契約になった国貞泰汎を獲得して、プレーの場を与えている。

「国貞さんも存在感のある先輩でした。広島の呉出身でカープに入団しながら、現役を追われていたので、江藤さんは、機会を与えようとされたのだと思います。かなり気を遣っておられました」(真弓)

 パ・リーグは外野席から捕手のサインを盗むといういわばスパイ行為が横行していたが、江藤は盗むなら盗めという姿勢を貫いた。投手が打たれたら、その分、取り返せばよいという初代山賊打線はこうして出来上がった。1番D.ビュフォード(三)、2番基満男(遊)、3番M.アルー(一)、4番土井正博(右)、5番白仁天(中)、6番江藤慎一(左)、7番竹之内雅史(指)、8番国貞泰汎(二)、9番楠城徹(捕)のレギュラーを中心に叩き出したチーム打率は.260.8でリーグ1位を記録した。投手陣もまた東尾修が23勝で最多勝を記録。チーム成績も前期が2位、後期が4位で総合3位でゴールしている。

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