今久留主成幸が語る明治大野球部と島岡吉郎監督とのエピソード。明治魂とは「選手への愛情と勝利への執着。みんな島岡教の信者だった」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Ichikawa Mitsuharu (Hikaru Studio)

── グラウンド以外の島岡御大の姿で、何か覚えていることはありますか。

今久留主 試合に勝つと『おい、みんな、今日は散髪へ行ってくれ』と言うんですよ。『散髪行ってね、身だしなみを整えてね、パリッとして、気持ちよく過ごしてくれ、今日はありがとう』って......御大にそんなふうに言っていただくと、みんながまた『ウォ〜ッ』って。

── いちいち『ウォ〜ッ』と叫ぶんですね(笑)。

今久留主 あとは、すえひろ5(ファミレス)でサイコロステーキとオニオングラタンスープを食べているところかな。御大はほぼ毎晩、そこで食事をされていたイメージです。僕らもよく連れて行っていただきましたが、御大は自分が食べ終わったら『よし、帰ろう』と言って、本当に帰っちゃうんです。だから出てくるのが遅かったり、食べるのが遅い選手は、やけど覚悟で熱々の肉を口の中に放り込むんですよ。

 でも、早く食べ終わったら終わったで『何だ、足りないのか、もっと食え』と追加で注文されてしまう。そうすると、御大の『帰るぞ』にあわせて熱々を口に放り込まなきゃならなくなるので、結局、やけどする(笑)。

── PL学園でKK(清原和博・桑田真澄)コンビの同級生キャッチャーとして3年夏の甲子園を制覇、プロでは大洋(現・横浜DeNA)、西武で10年プレーして、現在は広島の社会人チーム、ツネイシブルーパイレーツの統括アドバイザーを務めています。そんな今久留主さんにとっての"明治魂"は、どんな言葉が当てはまりますか。

今久留主 明治魂......それはやっぱり人間力です。たとえば朝の5時半に1年生がグラウンドへ出てくるんですが、御大が出てくるのはそれよりも早かった。で、最後のグラウンド整備を暗くなるまでジーッと見ている。そうすると、ある日突然、御大が『こいつを使ってみてくれ』と言い出すんです。実力的には『なぜ?』と、みんなが首を捻るような選手なのに、でも彼が試合に出るとポテンヒットを打ったりするんですよね。

 そういう時、御大は顔をくしゃくしゃにして『あいつには野球の神様がついているんだよ』と喜ぶんです。それが御大の魅力であり、明治魂でもあると思います。最後の最後まで手を抜かずに、心を込めて野球をする......そういう選手に野球の神様は味方する、という人間力を大事にする発想は、僕らに染みついていました。人間力という言葉には、強くあれという一人の力だけじゃなく、人と人をつなげる力も含まれていて、それが明治魂を象徴していると思っています。


今久留主成幸(いまくるす・なりゆき)/1967年5月10日生まれ、大阪府出身。PL学園では3年時に桑田真澄、清原和博の"KKコンビ"とともに夏の甲子園で優勝。明治大に進み、4年で主将を務め、秋のリーグ戦でベストナインを獲得。89年のドラフト会議で大洋(現・横浜DeNA)から4位指名を受け入団。95年のシーズン途中に西武へトレードされ、99年限りで現役を引退。現在はツネイシブルーパイレーツ硬式野球部の総括アドバイザー、株式会社WELSOCで役員を務めている。

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猛勉強の末、池袋大学に入学した荻島だったが、
野球部の練習初日になんと"4軍"行きを命じられてしまう!
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【著者プロフィール】石田雄太(いしだ・ゆうた)

1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Nunber』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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