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斎藤佑樹が「野球の神様」の存在を信じた伝説の甲子園決勝。駒苫の4番を迷わせた死球とフルカウントからのフォーク (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Okazawa Katsuro

 初球、ボール球でしたが147キロが出て、スタンドがワーッと沸きます。スリーボールになってからひとつストライクを取っただけで、またワーッと沸いてくれる。その次も真っすぐを投げてストライクがコールされると、もう、どよめきと拍手喝采です。これは、こちらに追い風が吹き始めたなと思いました。

 本間くんに対して初球からストレート、ストレート、ストレートで押していって、フルカウントからの6球目、投げる前から手拍子が響き渡る異様な雰囲気になったその瞬間、僕は「ここはフォークだ」と思いました。そうしたら白川も、あの流れだったら絶対にストレートのサインを出すはずなのに、スパッとフォークのサインを出してきた。「おお、すごい」と思いましたね。

 もし僕が首を振ってからフォークを投げたとしたら、本間くんに配球を読まれていたと思うんです。でも、首を振らずにフォークを投げられた。あの最後の空振り三振は、僕に最後のピースとなる自信を与えてくれましたね。

 最近、本間くんと話をする機会があったんですが、彼はインコースをめちゃくちゃ意識させられたと言うんです。でも、それがすごく不思議で、僕はアウトコースへ丁寧にストレートとスライダーを投げたという印象なんです。

 あれは延長11回だったかな......インコースを狙って投げたストレートが本間くんに当たってしまいました。明治神宮大会の時にインハイの真っすぐを投げてホームランを打たれていたので、インコースは得意なんだろうと思っていたんですが、一球は見せておかなきゃと投げた真っすぐがデッドボールになった。

 結果的には、彼が得意だと思っていたインコースへリスク覚悟であえて突っ込んだことによって、本間くんがその後、踏み込んでこられなくなったとしたら、ピッチングには勇気が必要だということになりますよね。インコースへ投げたデッドボールと、フルカウントからフォークを投げたこの2球が、駒大苫小牧の4番を迷わせたんだと思います。この自信は、確実に再試合につながっていましたね。

*     *     *     *     *

 思えば西東京大会の初戦、都昭和に3−2で勝って始まった早実の夏は、薄氷の勝利の連続だった。それが王者・駒苫との決勝を引き分け再試合にまで持ち込んで、選手たちに満足感が漂うのも無理からぬほどの快進撃だった。しかし、そうは考えない男がいた。早実の監督、和泉実である。和泉監督は再試合を前に選手たちを集めて、厳しい言葉を浴びせかける──。

(次回へ続く)

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