CS突破のキーマン、ソフトバンク松本裕樹の新球「サイドスピンチェンジ」はいかにして完成したのか (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

 一方、近年流行っているのがスプリットチェンジと言われ、一定のスピードを加えながら落としていくボールだ。スプリット(=フォーク)のように人差し指と中指を離して握り、実質的には同じような球種と言えるだろう。

 松本が投げているのは、このどちらでもない。まさにマルティネスが投げているように、サイドスピンをかけたチェンジアップだ。指を「抜く」のではなく、縫い目に「かける」ことで一定のスピード(松本の場合は130キロ台後半)が保たれまま、右打者の体の近くに食い込みながら落ちていく。スピード、変化、奥行きを兼ね備え、メジャーリーグではこのチェンジアップがひとつの潮流となりつつある。

必殺球誕生秘話

「シンカー系のボールですよね。ピッチングの幅を増やそうと、昨年オフから習得しました」

 そう話すのは、松本と個人契約する高島誠トレーナーだ。同氏が言うシンカーとは、日本でアンダースロー投手のそれとイメージされる、浮き上がってから緩く落ちていくような軌道を描く球種ではない。英語では「sinking fastball」と言われ、ストレートと遜色ない程度のスピードで沈んでいく球種のことだ。ちなみに大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)が今年から投げ始めた「ツーシーム」は、メジャーでは「シンカー」と言われている。

 高島トレーナーはワシントン・ナショナルズに勤務したのちに広島でジムを構え、オリックスの山岡泰輔、山?颯一郎、杉本裕太郎などとも個人契約している。「野球パフォーマンスアップスペシャリスト」を名乗るように、出力や身体動作を高めるトレーニングを教えるだけでなく、テクノロジーも駆使して野球の動作改善に導いていく点が大きな特徴だ。

 松本がサイドスピンをかけたチェンジアップ(本稿では「サイドスピンチェンジ」と形容する)を習得したのは、「ピッチデザイン」と言われる方法だった。

 ロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアーが使い始めた言葉で、クリーブランド・インディアンス(現・ガーディアンズ)時代に同僚だったコーリー・クルーバー(現・タンパベイ・レイズ)のようなスライダーを投げたいと考えたことが発端だ。回転軸やアームアングル(腕を振る高さ)など各種データを参考に、ハイスピードカメラで撮影した映像を見ながら微修正して自分のモノにした。

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