もしあの巨人戦でKOされていたら...中込伸が「山田勝彦のおかげ」と感謝する92年の覚醒秘話 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

 阪神打線はその3回に巨人先発の斎藤を攻略し、一挙4点を奪って同点。5回に1点を勝ち越した。一方で中込は3回以降、7回まで1安打無失点と立ち直り、8回からは田村勤が抑えて5対4でゲームセット。2回KOだったはずの中込が勝利投手になった。「タイムリーを打ってくれた」という山田は同期入団の若手ながら、捕手としてもしっかり引っ張ってくれた。

「山田はすごく勉強していたし、野球を知っている。僕は最初、ベテランの木戸(克彦)さんとよく組んでいたんですけど、大石さんに『山田がいい』と言うたんです。まだ二軍の時からね、『おまえが一軍に行った時はオレを指名してくれ』って山田に言われていたから、その約束を果たしたわけです。同級生だし、肩も強かったし」

 初勝利のあと、中込は4月15日の大洋戦(現・DeNA)で完封し(6回降雨コールド)、21日の同戦でも完投勝利。26日の中日戦で初黒星を喫したが、5月2日、9日と広島戦に続けて勝って、早くも5勝目を挙げる。

 真っすぐは140キロ台前半ながら、緩いチェンジアップ、カーブとの緩急を使ったピッチング。なおかつフォークもあり、真っすぐは打者の手元で微妙に変化した。

「ちょっと曲がる"真っスラ"ってボールがあったんで、大洋、広島、巨人と左バッターが多いチームにはラクに投げられたんです。逆に広沢(克己)さん、池山(隆寛)さん、古田(敦也)さんといった右の強打者が多いヤクルトは嫌でしたけど......。それも山田がうまいことリードしてくれたから生きたんです」

遠征に出れば飲み歩いていた

 身長183センチ、体重104キロの巨体にしてバッタバッタと三振に斬るのではなく、制球重視で丁寧に投げ込む投球スタイル。捕手・山田のリードを信頼しきったことも大きかったのだろう。5勝を挙げたあと、打線とのからみでなかなか勝てない日が続いたが、6月2日の広島戦、中込は8回までノーヒット・ノーランの快投。9回に1点を失ったものの、完投で6勝目を挙げた。

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