斎藤佑樹が長年愛用したミズノのグラブ。山奥にある工場を訪ねてマイスターに聞きたかったこと (3ページ目)
「僕はエリートでした?」
「いや、斎藤さんはキップだと思いますよ」
「あれっ、そうでしたか(笑)」
「キップのほうが硬いんです」
「仔牛のほうが硬いんですか」
「繊維が入り組んでいる分、硬くなります。成牛のほうが、繊維がほぐれて柔らかく、しっとりした感じになりやすいんですね。ただ最近はキップもしっとり感が増しています。斎藤さんも表面のタッチがしっとり系だからエリートだと思ったのかもしれませんね」
つまり、すぐに試合で使いたい場合はエリート、時間をかけて形をつくりたい場合はキップを選ぶ、ということになる。最近はすぐに使えるエリートのグラブを求める選手が、とくに野手に多いのだそうだ。
「軟らかいのはいいんやけど、ポイントがちょっとでもズレたら使いづらいということもありますからね。自分で育てたほうが形のばらつきは出にくくなりますわね」
最近の人気カラーはブロンド
ドラゴンズの二遊間を組んだアライバ(荒木雅博、井端弘和)コンビ、あるいはスワローズの名手、宮本慎也は何年もかけて硬いキップを自分のグラブとして育てたのだという。さらに、色に興味がある斎藤はこんな質問を畳みかける。
「岸本さんが選ぶとしたら、どの色ですか」
「私ですか......私なら、ナチュラルが好きですね。この色は革質も安定しているんです」
「現役時代、黒はクセを見抜かれないからいいって言われたんですけど、どうですか」
「黒は、色染めの時にいろんな色を混ぜないと出せない色なんです。その分、革自体の表面がしっかりして、重くなりますから、しっかりした感じが出てピッチャーには好まれるのかもしれませんね」
「人気があるのはどの色ですか」
「最近はブロンドが人気です。オレンジや赤、ロイヤルブルーも人気がありますけど、こういう濃い色は、光による色褪せが出やすいんです」
革の倉庫を出て、作業場へ。
波賀のグラブ工場は、工場というよりも工房に近いイメージだ。クラフトマンたちが最新鋭の機械を駆使しながら、研ぎ澄まされた感覚に頼るしかない手作業での仕上げを重ねていく。
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