「球史に残る5人の名投手」をジャッジ歴35年の杉永元審判員が選出。「野球を8イニングに変えた男」がいた

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

 昨年までプロ野球の審判を務めた杉永政信氏。ジャッジ歴35年はNPB史上4位タイの長さである。そんな超ベテラン審判員だった杉永氏に、これまでジャッジしてきたなかで「印象に残っている投手5人」を挙げてもらった。審判員が選ぶ「名投手」の条件とは?

日本人選手初の「100勝・100ホールド・100セーブ」を達成した上原浩治日本人選手初の「100勝・100ホールド・100セーブ」を達成した上原浩治この記事に関連する写真を見る上原浩治(元巨人ほか)

「絶対に抑える」「絶対に勝つ」という観点からすれば、上原浩治投手は本当の意味で最強の投手でした。日本球界唯一の「100勝・100ホールド・100セーブ」を達成したように、先発、中継ぎ、抑えで実力を発揮した稀有な存在です。

 9イニング平均与四球率2.00個で抜群のコントロールと言われるところ、上原投手は1.26個。これは日本のプロ野球の歴史において、とてつもなくすごい数字だそうです。

 プロ1年目から20勝をマークした上原投手ですが、先発時代は完投数も多かった。2002年と2003年はリーグ最多の完投数を誇っていました。

 1試合を複数の投手で投げるというのは、じつは球審としてとても気を遣います。投手の球筋を見極めないといけないですし、その日の出来というのも把握しなければなりません。語弊があるかもしれませんが、上原投手が先発する試合は球審として「ラク」をさせていただきました。

 ジャッジをするうえで、大事なのはリズムです。3ボール2ストライクが多い投手は正直しんどい。ストライクをとれる、空振りをとれる、四球が少ない、テンポがいい。とくに空振りがとれるというのは、際どいコースをジャッジする必要がないわけですから、球審にとってもっともありがたい。上原投手はこのすべてを兼ね備えていました。

 上原投手の球種はおもにストレートとフォークの2つ。それでも野村克也さんが「内角のボール球のストレートと外角低めのストライクのストレート」「高めのストレートと低めのフォーク」と、この2ペアがあるから上原投手は打者を牛耳ることができると絶賛していたそうです。そのとおり球種こそ多くありませんが、抜群のコントロールとテンポで次々と強打者を打ちとっていた上原投手のピッチングは、まさに爽快でした。

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