山本由伸、千賀滉大に共通する思考。進化するピッチングの秘訣は「常識にとらわれない発想力」

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

【短期連載】令和の投手育成論 第15回(最終回)

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 優れたアスリートを形容する表現に、「センスがある」というものがある。この言葉が暗に示すように、運動能力は先天的に授かる才能として捉えられがちだ。

 だが、そうした"定説"に反し、「センスは誰でも磨くことができる」と主張して活動する元プロ野球選手がいる。2006年大学生・社会人ドラフト4巡目でロッテに入団し、翌年から3年連続で50試合以上に登板した荻野忠寛だ。

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スポーツセンシングとは?

「今までの自分よりどう成長するか。それを周りの人に言われてやるのではなく、自分自身でできる能力を身につけていくのが『センスを磨く』ということだと思います。僕は『スポーツセンシング』と言っていますが、定義は『人が成長するための本質的な能力』です」

 英語の「sense」はラテン語の「sensus」が語源で、「感じること」という意味だ。荻野はその力をスポーツにどうすれば生かせるかと独学で研究し、成果を「スポーツセンシング」と名づけた。

 きっかけは2014年限りでロッテを退団し、古巣の日立製作所で2年間プレーしたことだった。8年間一緒に過ごしたプロ野球選手と、アマチュア最高峰と位置づけられる社会人選手との差に愕然としたのだ。

 日立の選手たちは総じて真面目で、練習にも精を出した。だが指導者に教えられてきたように思考し、その"枠"をはみ出ることはほとんどない。彼らは長時間練習を重ねてアマチュア球界トップまできている一方、"時間対効果"の低さがプロへ突き抜けられない一因とも感じられた。

 対して、プロ野球にたどり着くような選手は自分自身で考えながら"枠"を超えていく。二刀流の大谷翔平はその極みだろう。

 9年ぶりに日立に復帰した荻野はプロと社会人の差が開いているように感じ、危機感を募らせた。アマチュア最高峰の社会人野球が思うように伸びていないということは、日本球界の指導のあり方に問題があるとも言えるからだ。

 両者の決定的な差は「センス」だ。では、どうすれば磨いていけるのか。

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