「10分で球速10キロアップ」「イップスを1時間で改善」...SNSやYouTubeに躍る華美な謳い文句は本当か? (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshiyuki

 北川も何か資格を持つわけではないが、施術した人から「同じ方法を受けたことがない」とよく言われるという。自分の手法は独特だと24、5歳で気づいたことが独立に至るきっかけだ。テニス選手の海外遠征に帯同したり、名高い交響楽団や音楽家を施術したりしながら人体への理解を深めた。学んだ知識や経験を自身にも生かし、29歳の時に最速142キロを計測している。

 現在、多く担当するのは野球選手だ。1セッション3万円とそれなりの額だが、プロ選手だけでなく、ドラフト候補の大学生や強豪私学の高校生も受けにきている。

「何気ない日常会話のなかでいい方向に導いていくことが大事だと思っています。僕が外部の人間だからこそ言えることもあるので、心のなかのモヤモヤを話して整理してもらう。その前段階として、メカニクスに対してロスがあったり、ルーティンで行なっているウォーミングアップではまってこないことがあればメスを入れたりする。トータルでコンサルティングしているような感覚です」

特別なことはやっていない

 昨今トレーナーとして活動する者は無数にいて、YouTubeにはトレーニングメニューが数多くアップされている。選手からすれば、どれに取り組めばいいのか判断しにくいかもしれない。だからだろうか、「絶対学ぶべき」「球速アップ確実」という目を引くサムネイルのついたものが"バズる"傾向にある。その一方で、地道なトレーニングなど"即効的"に見えないものはスルーされやすい。

 冒頭で述べたように北川のYouTubeには華美な文言が並び、興味を惹かれた球界関係者が訪れてくるが、帰る頃にはまったく異なる印象になることも多いという。筆者もそのひとりだ。断片的には誰もが知っているようなことから、北川は深層に引き込んでいく。

「トラックやタクシーの運転手がずっと座っていると、坐骨の周りが痺れてくることがありますよね。それは圧迫されて、血流が悪くなるからです。血が行きにくくなると筋肉の粘性が高くなり、筋肉の滑りが悪くなるからその逆をしてあげればいい。たとえば、筋膜ローラーで転がしたりすることで"ファシア"と言われる筋膜に滑りが出てきて動きやすくなるので、そこを手技でつくってあげる。血流がよくなれば、筋肉は自分が思ったように動きやすくなります」

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