「10分で球速10キロアップ」「イップスを1時間で改善」...SNSやYouTubeに躍る華美な謳い文句は本当か? (4ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshiyuki

 10分の施術で球速アップする裏には、このようなアプローチがある。それをYouTube仕様にすると華美なサムネイルがつくが、北川が実践しているのは至極自然に則ったことだ。

「僕は特別すごいことをやっているわけではありません。自然治癒力とか、その人が持っているものに働きかけていく。体で滞りのある部分をなくして血流をよくするとかですね。たとえば、投げていたら広背筋が前にきて、筋肉の位置が変われば頭のなかでは『ここにある』と思ってやっていることが、じつは『そこにない』ということがあります。脳のなかでの『ボディマッピング』と言うのですが、それがずれている状態だとヒジが下がる場合がある。だから、正しい位置に変えていきます」

 ボディマッピングは音楽家などに実践され、頭のなかで体の位置やサイズを認識する能力だ。フルート奏者の『岡本元輝オフィシャルサイト』によると、「ボディマッピングを実践することで、演奏するときに効率的な体の使い方ができるようになります」という。音楽とスポーツは自身の体を使って表現するという点で同じで、北川は野球選手たちに対して身体動作のトレーニングなどから「自分の体を思ったように動かせるように」アプローチしている。

「たとえば『ヒジが上がるようになりました』と言ったら、そこの筋肉に力が入っている感じを覚えるトレーニングをします。股関節が動くようになるトレーニングや、体の中心から力を出すトレーニングを教えていく。僕はただ球が速くなってほしいと考えているわけではなく、恒常的にケガをしないで積立投資みたいにパフォーマンスが上がっていくのがいいと思っています」

"負荷耐性"の必要性

 そのためにポイントになるのが"負荷耐性"だ。北川が続ける。

「球が速くなった選手にはよく、『右肩上がりでギュッて伸びたら、そのままもう一段階上げようとするな』と伝えます。『プラトー』と言われるようなことで、成長曲線を1回平坦にして、それほど頑張らないでも同じパフォーマンスを出せるようにする。球が速くなったあと、2、3日は体への負担がめちゃくちゃデカいけど、球が速くなったらうれしくて投げすぎたりしますよね。ウエイトトレーニングも同じです。だからセッションの終わりに、『体を慣らしていくのが大事だよ』と話しています」

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