2022.06.07

元審判員が「すごかった」と語る「選手、監督としての落合博満」。あわや放棄試合の猛抗議で審判に言い放ったまさかのひと言とは?

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

 2020年シーズンを最後に、実家の寺を継ぐためにNPBの審判を引退した佐々木昌信氏。公式戦通算2414試合に出場し、日本シリーズも6度出場。そのほか日米野球でも球審を務めるなど、名審判として鳴らした。これまで、印象に残った投手や捕手、外野手について語ってもらったが、今回は佐々木氏が「選手としても監督としてもすごかった」と語る落合博満氏について話を聞かせてもらった。

2009年のヤクルト戦で猛抗議をする中日時代の落合博満監督(写真中央)2009年のヤクルト戦で猛抗議をする中日時代の落合博満監督(写真中央) この記事に関連する写真を見る

落合監督の「男気」退場劇

 私は29年の審判生活のなかで、3回退場宣告をしたことがあります。そのなかのひとりが中日の落合博満監督(当時)です。忘れもしない2009年10月11日の神宮球場でのヤクルト戦のことです。

 中日が3対2とリードの7回裏、一死一塁からヤクルトのジェイミー・デントナ選手がレフトポール際に大飛球を飛ばしました。私はレフトポールの真上を打球が通過したと判断し、本塁打とジャッジしました。打ったデントナ選手はダイヤモンドを悠々と1周してホームイン。

 ところが、その直後に問題が起きたのです。球場の電光掲示板にリプレー映像が流れたのですが、それを見る限り、明らかにファウルに見えると、落合監督が抗議してきました。守っていた野手を全員ベンチに引き揚げさせるなど、徹底抗戦の構えを見せたかに思ったのですが......実情は少し違っていたのです。落合監督は私にこう言いました。

「打ったバッターがうまかったから黙っていようと思ったが、あの映像を見せられたら、悪いけど監督の立場として出ていかないわけにはいかない。かといって、判定をくつがえすわけにもいかないだろう。いいよ、オレが退場になるから。退場のルールって5分だったよな。5分測ってくれ。代理監督はシゲ(森繁和)だ」

 落合監督は抗議というより、場を丸く収めるために"男気"を見せてくれたのです。あの時は、落合監督に救われました。

 退場処分にさせてもらい、私はファンに事の成り行きを場内放送で説明させてもらいました。

「ただいまのヤクルトの"ブランコ"選手の打球に対して、中日の落合監督が5分以上の抗議をしましたので、遅延行為により退場とさせていただきます」